能力開発データベース

■能力開発技法

ラボラトリー・トレーニング





概要 活用の仕方 運用・開発上の留意点 その他

■概要

ラボラトリーとは一般に実験室のことをいいますが、トレーニングの過程が実験室のような小集団の中で行われるので、こう呼ばれています。プログラムもテーマもない独特なグループの中での自由な話し合い(フリー・フローティング・ディスカッション)を通して、他人の感情や欲求を感じ取ったり、自分の言動が他人に及ぼす影響を感じ取ったり、他人の目を通して自己を洞察したりすることを体験を通して学習します。

ラボラトリー・トレーニングはセンシティビティ・トレーニングの基礎となったトレーニングです。現在では、センシティビティー・トレーニングが人間関係に焦点をおいて行われるのに対して、ラボラトリー・トレーニングはグループダイナミックスに焦点をおいて、リーダーシップの開発や組織開発を主眼としているものを指して使われることが一般的です。


■活用の仕方

本来のラボラトリー・トレーニングでは、プログラムもテーマもない非構造(unstructured)なやり方で進められます。この場合、期待する効果をあげるためには、トレーナー(または、ファシリテーター)に相当の熟練と手腕が要求されます。そのため、演習課題や進行予定プログラムを用意した構造化した(structured)やり方も広く行われています。ブレーク・アンド・ムートンが考案したインスツルメンテド・チーム・ラーニング(ITL:Instrumented Team Learning)もその一つです。

インスツルメンテド・チーム・ラーニングでは、つぎのように進められます。

@受講者を6人か7人くらいずつのグループに編成する。
Aグループが自主的に学習活動を進めていけるような工夫をする。
例えば、ケース・スタディ理解促進テスト法クリティーク(ふりかえり)などのインスツルメント(演習用の教材や課題)を活用する。
Bまた、協力ゲーム、コンセンサス・ゲーム、コミュニケーション・ゲームなどの各種のゲーム的な実習課題も、グループが自主的に学習活動を進めていくときの便利なインスツルメントとして広く活用されている。


■運用・開発上の留意点

ラボラトリー・トレーニングでは、グループによる体験学習を中心にして研修活動が進められていきますが、そのグループを構成するメンバーが、同じ課内とか係内とかいうように同じ職場のもので構成されているとき、そのグループのことを「ファミリー・グループ」といい、このファミリー・グループによってラボラトリー・トレーニングを実施していくことを「ファミリー・トレーニング(職場ぐるみ訓練)」といいます。

なお、異なる会社のものでグループを構成する通常のものは「ストレンジャー(他人)・グループ」といい、同じ会社の異なる職場のもので構成するものは「カズン(いとこ)・グループ」といいます。

ファミリー・トレーニングの主なねらいは、職場の構成するメンバーの意識や態度、行動を改善・活性化することによって、職場の風土・気風・風潮を改善・活性化することにあります。組織開発(OD:オーガニゼーション・デベロプメント)の活動の重要な一環としても実施されています。

ファミリー・トレーニングでは、人間の感情や態度、行動などを扱い、時には深層心理の奥底にまで迫る場合もあり得ますので、訓練の進め方については慎重な配慮が肝要です。その点からも、心理療法や集団力学などに精通した外部の専門家が訓練に関与することが望ましいのです。


■その他

ラボラトリー・トレーニングの一つとして、センシティビティー・トレーニングがあります。これは感受性訓練と訳されますが、単なる感受性の訓練にとどまらず、全人格的な人間性訓練ともいうべきものなので、むしろ翻訳せずにSTと称することが一般的です。

STは、1946年、アメリカのコネティカット州で行われたソーシャル・ワーカーたちのワークショップ(研究集会)の中から、偶然的な所産として生まれたもので、その後、集団力学や心理療法、社会教育などの分野の人たちの指導によって、発展してきたものです。


■組織開発 (Organization Development:OD)

変化に適応できる柔軟な組織づくりは、組織目標と構成員の目標との統合化を図りながら真に働きがいのある組織風土をいかに作るかにかかっている。 そしてそのためには、単に管理制度や組織構造の変革だけではなく、トップマネジメントを含めた組織全体の変容を計画的に図る必要がある。というのがODの基本的な考え方である。
ODの進め方には、行動科学的な手法を取り入れての教育訓練的なアプローチと組織診断的アプローチの二つがある。
教育訓練的アプローチとしては、マネジアル・グリッドやSL等による管理者のリーダーシップの変革がある。
また、診断的アプローチとしては、組織機能やサブ・システムを分析したうえで改善計画を立て、これを実践変革していくという方法がある。
このように、ODを定着させるには、トップマネジメントを含めた組織全体が、本腰を入れ時間をかけて取り組むことが求められる。


■ニュー・ファミリー・トレーニング

同じ部内とか課内など、一つの職場を単位にして実施する教育訓練のことを「ファミリー・トレーニング(職場ぐるみ訓練)」といいますが、このトレーニングが場当たり的にならないように、アメリカで生まれた行動科学の理論と方法に従って、系統的に進めていこうとするやり方のことを「ニュー・ファミリー・トレーニング」といいます。

ニュー・ファミリー・トレーニングでは、まず、職場の風土(風潮、雰囲気)や、構成メンバーの意識・行動について、アンケートによる職場診断を実施します。たとえば、次のような質問をします。

  • 雰囲気は暖かく活気があふれているか。
  • 言いたいことが率直に言いやすい雰囲気か。
  • 仲間の意見を互いに傾聴し合っているか。
  • 互いに援助し合い励まし合っているか。
  • お互いの持ち味を活かし合っているか。

    など
次に、この職場診断の結果をメンバーにフィードバックするためのミーティングを開きます。1泊2日の合宿などがよく行なわれています。そこでは、診断の結果を題材にして、職場の問題解決や目標設定などを話し合います。

たとえば、次のような要領です。
  • 我々の職場が当面している問題点は何か。
  • 職場に期待されている任務・役割は何か。
  • 当面、重点的に取り組むべきことは何か。
  • なにを、どれだけ、いつまでにやるべきか。
  • 各自が果たすべき任務・役割は何か。
  • 一人ひとりは具体的に何をしたらいいのか。

ニュー・ファミリー・トレーニングは、アメリカの行動科学の理論と方法をベースにしています。マグレガーのY理論や、ハーズバーグの職務充実論、リッカートの媒介変数理論などにもとづいて、メンバーの意識や行動を変革し、職場風土を活性化して、働きがいのある職場に変革していくことを目的としています。