能力開発データベース

■能力開発技法

ケース・スタディ





概要 特徴と効果 実施の手順 実施・開発上の留意点

■概要

さまざまなビジネスの場面で、職場の中で、あるいは経済環境の中で、どこでも起こりそうな具体的なケース(事例、事件、出来事)を素材として、個人またはグループで討議し、本質を究明し、問題点を分析したり、解決策を立案したりすることによって、問題解決能力や意思決定能力などを開発することを目的として活用されます。シカゴ大学で最初に行われたことから、シカゴ方式ともいいます。

ものの本質の見方や考え方を訓練することをねらいとした研修技法のひとつで、「事例研究法」ともいい、参加者は提示された事例について考察することによって、類似の問題や状況における問題の解決に対する応用力を養成することができます。

「ケース・メソッド」「インシデント・プロセス」などの発展型もあります。「ケース・メソッド」は、ハーバード大学で開発されたので、ハーバード方式ともいいます。現実に起こった問題を、当事者の立場に立って解決していく過程を通して、分析力、判断力、洞察力、意思決定力などを養成します。


■特徴と効果

ケース・スタディの特徴を要約すれば、次の通りです。

  1. 問題発見、問題分析、意思決定などの能力を開発する。
  2. ものの見方や考え方について、自己の特徴や他者の特徴を認識する。
  3. グループ討議の過程を通して、相互に啓発し合い、ものの見方や考え方をさらに広く深いものにする。
あるケースをモデルとして、個々の問題の中から共通の真理を引き出す洞察力を学習することもできます。また、グループで取り組むことによって、グループ討議の過程を通して、受講者同士のものの見方や考え方の相違がすりあわされ、そこから相互啓発が生まれます。お互いのものの見方や考え方が、よりいっそう幅広いものや奥行きの深いものに開発されることが期待できます。

■実施の手順

まず「誰の立場に立って取り組むか」という、問題分析の立脚点を明確にします。ケース・スタディは、ある状況や問題を受講者に対して、「あなたなら、どうする」と問いかけるところに大きな意義があるからです。

ケース・スタディの一般的な進め方は、次の通りです。

   第1ステップ導入とケースの提示
  (何を、どのように、何のために)
   第2ステップケースの事実の認定
  (推測、解釈、創作をしない)
   第3ステップ色々な問題点の発見
  (問題と思われること)
   第4ステップ核心的な問題点(原因)の発見
  (基本的な問題点の抽出)
   第5ステップ色々な解決策を考える
  (代替策も含めて)
   第6ステップ最終的な解決策の決定
  (対策案の評価と意思決定)
   第7ステップフィードバック
  (受講者、担当講師からのコメント)

なお、所要時間はケースの大きさによっても異なるが、フィードバックの時間も含めて、最低30分は必要となるでしょう。ケースにより、1時間、2時間を必要とする場合もあり、適切な時間設定をすることが重要です。

受講者への課題の提示は、次のような要領で行います。

[課題]

つぎのケースにつき、○○課長の立場に立って解決策を 考えなさい。

@事例の中で問題となる点を抽出する。
Aその中から最も重要な項目を選出する。
Bその項目について、さらに原因を掘り下げる。
Cその中から革新的な要因を摘出する。
Dどうしたらいいかの対策を検討する。


■実施・開発上の留意点

  1. 順序立てて分析する

    ケース・スタディ(事例研究討議)を進めていく上で留意すべき第1の点は、問題解決や意思決定の手順やステップに従って、順序立てて進めていくことである。
    簡略化して行う場合でも、前半の問題点を分析する段階と後半の解決策を立案する段階は区分すること。
    これは問題点の認識について、ケース・スタディに参加するメンバー全員の共通の理解に達してから、対策を考えた方がよいからである。

  2. 個人研究からグループ研究へ

    留意点の2番目は、いきなりグループ討議に入ってしまわないこと。
    必ずメンバーの一人ひとりに、自分なりの問題分析をさせてから、つまり「個人予備作業(インディビデュアル・プリワーク)」を確実に行ってから、グループ研究に入ること。この点は重要である。
    事例研究討議をやることの大きな利点の一つは、受講者のものの見方や考え方の幅を広げたり、深さを掘り下げたりすることである。そのために、グループ・メンバーが各人各様のものの見方や考え方をそれぞれ持ち、それぞれの考えを出し合い、ぶつけ合うことによって、相互に刺激しあうことが重要になってくるからである。

  3. 統一見解をまとめる

    ケースについてのグループ討議の結果は、グループの統一見解として集約して、チャート紙(模造紙)などに書き出す。
    統一見解に至る意見調整の過程で、日常の職場と同じように、コミュニケーションやリーダーシップ、意思決定などをめぐって、多少とも緊張したダイナミックスが生じるが、その体験も学習の機会として重要である。

  4. 当事者意識で取り組む

    ケース・スタディは、受講者にとっては、当面している自分自身のことではないので、とかく“他人事”になりやすいものである。そのためにも、導入の時にケース・スタディの目的を強調しておくことが大切である。

  5. 学習したことを確認する

    最後に、受講者たちがケース・スタディから何を学び取ったかを受講者自身に整理してもらう。
    たとえば、次のような要旨を板書して、受講者たちに5分間くらいメモ書きをしてもらい、それをグループの中で発表し合って確認し合う。

    「ケース・スタディを通して、気づいたこと」

  6. ケースのつくり方

    ケース(事例)を作成することをケース・ライティングという。ケース・ライティングをするときの注意点は、次の通りである。

    @目的、テーマを明確にする
    何のためにやるのか、どういう効果をねらいとするのかをはっきりさせること。

    A範囲や対象を明確にする
    営業担当者を対象とするのか、技術サービス担当者を対象とするのか、あるいは部長クラスを主とするのか、グループ・リーダー・クラスを主とするのか、そのケースの範囲や対象を絞り込んでおく。

    B資料・情報を収集する
    モデルとなるような場面や状況を設定し、会社の内外にそれと類似したケースを探して、関連の情報を収集する。

    Cストーリーを作成する
    収集した情報や事実を盛り込んで、一つのまとまりをもったストーリーに書き上げる。ビジネス上で起こりそうなこと、解決が少し難しいことに力点をおく。なるべく主観的な評価を交えないで、客観的な出来事や事実を中心にして記述する。