能力開発データベース

■能力開発技法

OJT





概要 特徴と効果 活用の仕方 実施・開発上の留意点

■概要

OJT(On the Job Training)は、日常の職場の中で、日常的な業務を遂行しながら、仕事に必要な知識・技能・技術・態度を計画的にレベルアップしていくことをいいます。担当業務の職務遂行能力の向上、成長させるには、職場での経験を積ませることが効果的です。

企業内における能力開発の基本は本人の自己啓発であるといえますが、これを側面から促進していくのが上司や先輩によるOJTです。OJD(オンザ・ジョブ・デベロップメント)、またはOJL(オンザ・ジョブ・ラーニング)ともいいます。

  1. OJTは日常の仕事の中で行われる育成であり、主なねらいは、
    • 職務遂行能力の向上
    • 仕事への取り組み姿勢(態度能力)の変革にある。
  2. 通常は、1対1(マン・ツー・マン)で行われるが、役割分担をして、1対グループ(チーム・トレーニング)の方法もある。
  3. OJTは育成目標を明確にし、計画的な行動計画ステップで構成されるべきである。
  4. 育成目標の設定は、職務分析をもとにした日常的、現実的なものにする。
  5. OJTは、管理者の職務である。
    人材育成は管理者の重要な職務の一つである。とくにOJTでは、育成計画づくり、職務の割り当て、指導者(コーチ)の割り当て等、管理者の取り組みが大きな影響力を及ぼすことになる。
OJTを成功に導くためには、本人と指導担当者の問題とするのではなく、組織全体が育成という風土をもち、お互いに刺激しあうことが重要です。


■特徴と効果

OJTには次のような利点があります。

  • 日常的に業務の中で指導できる。
  • 身近に具体的に指導できる。
  • 場合に応じて臨機応変に指導できる。
  • マン・ツー・マンできめこまかく指導できる。
  • あまり経費をかけないで指導できる。
このようなOJTを効果的に実施すると、大きく分けて三つの効果が期待できます。

@OJTは部下のためである。
企業人としての向上意欲、自己実現意欲を満足させることにつながる。
AOJTは指導者自身のためである。
後輩を指導することによって指導者自身の能力向上は副次効果として大きいものがある。OJTが効果的に実施されれば、周囲からの信頼も増大し、上司・先輩として自信につながる。その結果、組織に育成の風土醸成が実現できることになる。
BOJTは会社のためである。
育成の風土ができ上がった組織は、おのずと積極的な活動を生み、組織としての成果の向上に大きな影響を与えることになる。


■活用の仕方

OJTを効果的に活用するための条件には、次のようなものがあげられます。

  1. 指導者の条件
    @OJTの指導者には、通常、組織の管理者本人、または管理者に任命された先輩等がなる。
    A担当の業務に精通していること。
    B関連する人、部署を動かす影響力を発揮できること。
    C積極的な仕事・人間関係への姿勢を示すことができること。
  2. 組織全体の育成の仕組みの整備
    @業務分析をもとに、本人の業務遂行の内容とレベルを明確にする。
    A目標設定から実施、指導、評価までのステップを明確にする。
    B役割割当て、課題割当て等の行動計画を立てる。
    C人事考課、資格制度等、人事制度に関連させた計画にすると、より具体的、実践的になる。
  3. 能力の把握
    @個人の能力レベルを把握しておく必要がある。
    A現在のレベルに合わせて、計画されるべきである。
    B目標は、当面の要求される職務レベルのほか、本人の将来キャリアも勘案して設定する。
  4. 計画的であること
    @OJTとは、計画的な部下育成の活動である。
    A実施にあたっては、無計画に、場当たり的にやるのではなく、本人の積む経験がすべて「計画された経験」であることが重要である。


■実施・開発上の留意点

OJTを効果的に実施するには、開発に当たって、次のような留意が必要です。

  1. 基本は体得
    人が何かを学習し、習得するときには、実際の体験を通して、その技能・技術のレベルを上達させていくものである。座学だけではなく、体験させることが重要。アメリカの教育哲学者ジョン・デューイは、このことを「ラーニング・バイ・ドゥーイング(成すことによって学ぶ)」という言葉であらわしている。

  2. 段階的学習・指導
    指導の基本は「易しいことから難しいことへ(ステップ・バイ・ステップ)」で学習できるという配慮が必要である。

  3. 課題割当
    「ラーニング・バイ・ドゥーイング」の原理を職場のOJTに応用するならば、部下や後輩たちに、本人がやるべき課題を的確に与えていくことが重要となる。このやり方を「課題割当(ワーキング・アサインメント)」という。
    たとえば、次のように課題を割り当てていく。

    • 特定の本を読ませる。
    • 研究テーマを与えてレポートさせる。
    • 職場内の改善提案をまとめさせる。

    部下たちはこれらの課題を成し遂げる過程で、いろいろな体験をし、その体験の中から、様々なことを体得していくことができる。

  4. 役割付与
    課題割当と似たようなやり方で、次のような役割・任務を与えるやり方のこと。

    • QCサークルのリーダー
    • 新入社員の指導係
    • 冶具工具の整理整頓係など

  5. 指導(コーチング)
    部下の指導にあたっては、職務遂行をよく観察する必要があり、観察結果の事実に基づいた指導が要求される。

    指導にあたっては、次の配慮が必要となる。

    @OJTの実施中には、本人への的確なフィードバックを欠かさないこと。
    Aフィードバックは、あくまでも目標・行動計画に対する本人の実際の言動(実績)に対して行うこと。
    B期待された職務遂行を継続的に実現するため、部下の望ましくない言動を改善したり、望ましい言動を維持、強化したりするコミュニケーションが必要である。
    C改善のための指導の機会
    • 仕事の進め方に問題がある時
    • 可もなし、不可もなしの状態が続く時
    • 人間関係がうまくいっていない時
    • 残業が多い時
    • 規則違反があった時
    など
    D維持、強化のための指導の機会
    • 以前に指導した事が改善された時
    • 期待された以上の成果をあげた時
    • 仕事が予定通り進んでいる時
    • 明るく元気な時
    など


■デューイ (J.Dewey : 1859-1952)

アメリカの哲学者、教育学者。シカゴ大学教授。
シカゴ大学では自分の思想に基づく実験学校を経営し、哲学上ではいわゆるシカゴ学派の中心人物として活動した。
教育は、「経験の意味を強調し、また後に続く経験の過程を導く能力を強化する経験の再構造化(reconstruction)ないし再組織化(reorganization)である。」と説明される。その意味でそれは生活体の成長であるともいわれる。
方法的には、子どもの自発的な興味と活動、作業による学習、問題解決としての学習などが重視された。