能力開発データベース

■能力開発技法

相互学習法





概要 特徴と効果 活用の仕方 実施・開発上の留意点

■概要

数人のグループを編成して一つのテーマ、たとえば、「市場動向」「新商品開発」「国際化」などのテーマを設定します。そのテーマをいくつかのサブ・テーマに細分化して、それぞれのサブ・テーマを各メンバーが分担して、調査や分析を行い、その結果をグループの会合の中で互いに発表し合います。

発表された内容をめぐって互いに質疑応答や意見交換を行ない、このような相互交流や相互啓発をくりかえすことによって、ある学習目的を達成するやり方のことを「相互学習法」といいます。


■特徴と効果

このやり方では、テーマの設定が重要で、受講者たちの現実の職務に関連のある身近なものを選定することが効果的です。

分担したそれぞれのサブ・テーマについての調査や分析の過程では、各メンバーは自己の保有する全能力を活用し発揮します。

情報収集能力、読解力、分析力、洞察力、表現能力など、あらゆる能力を総動員して、グループの会合での発表のために準備します。その過程で、自己の能力で不足している部分を認識でき、それを補充するための自己啓発に努力することが期待できます。

グループでの発表に備える事前準備のためには、レジメ(講義概要)やレッスン・プランなどを作成することが必要であり、このような計画・立案能力、企画力、構想力、創造性、文章表現能力などを養成することも期待できます。

また、分担と協力とのチームワークについても貴重な体験をさせることができます。


■活用の仕方

1.テーマの選定

相互学習法では、数人でグループを編成して一つのテーマ(課題)に取り組みます。グループの人数は5〜7人ぐらいが適当です。受講者たちの仕事に関連した身近なテーマを選びます。

たとえば、「新商品のアピール・ポイント」、「能力主義人事管理の最近の動向」、「アメリカの新しい経営理論」などのように、受講者たちが興味を抱いたり、必要性を感じたりできるものであることが大切です。

2.個別研究

ひとつのテーマは、さらにいくつかのサブ・テーマに細分化して、各メンバーがそれぞれのサブ・テーマを分担します。ここからあとは、各メンバーによる個別研究の期間となります。

個別研究の期間の長さは、テーマにもよりますが、1ヶ月くらいが適当です。短すぎても個別研究が未完成になりますが、長すぎても学習意欲を減退させることがあります。


発表会の日時や会場などを設定して、各メンバーは発表のための準備作業に取りかかります。関係者にインタビューしたり、図書館で参考図書を探したり、集めたデータを分析したりして、発表準備のためのレジメやレッスン・プランを作成したりします。

主催者側がアドバイスをしたり、参考図書を示唆したりすることもあります。

3.発表/意見交換

発表会の進め方は、通常の会議の進行とほぼ同様です。コーディネーターが発表会の司会の役割を担当します。
発表の所用時間は15分〜20分位が適当です。発表が終了したら、グループの全員で質疑応答や意見交換を行ないます。

コーディネーターはこれらが円滑に進行できるように援助します。その際の注意事項は、通常の会議での司会者の心得とほとんど変わりありません。発言の少ない人に誘い水を差したり、討議の内容を掘り下げたり、論点が偏らないように配慮したりします。
メンバーの方も、発表させられる内容だけでなく、発表のやり方や、質問の仕方や、それに対する答え方、討議の掘り下げ方などに注目するようにします。発表会の雰囲気が活気のあるものであれば、それだけ相互啓発の効果は高いものが期待できるからです。


■実施・開発上の留意点

相互学習法のやり方には、いろいろなバリエーションが考えられます。

  1. グループの数をいくつか複数にして、全体会合での発表をグループ単位に実施するのも、一つのバリエーションです。この場合は、グループの中でのメンバー相互の分担や協力のあり方、つまりチームワークがより一層重要になります。
    また、全体会合での発表のやり方や、質疑や討議の進め方が多少複雑になりますが、バズ・セッションやパネル・ディスカッションのやり方などからヒントを学ぶとよいでしょう。

  2. 発表会のあとで、発表の内容や発表の仕方について、反省討議(ふりかえり)の場を設けると、学習の効果はさらに明確になります。その場合は、次のようなチェックリストを用意しておくとよいでしょう。

    • 能動的に物事に取り組んでいたか
    • 自信や熱意のある態度を示したか
    • 自分の考えを明確な表現で伝えたか
    • 説明の内容は体系化されていたか
    • 相手の発言内容を明確に把握していたか
    • 厳しい質問などにも前向きに立ち向かったか
      ……

    発表会に至るまでのチームワークのあり方について、反省討議をすることも大変に有効です。

  3. 人間一人ひとりに個性があるのと同じように、人間が何人か集まってできる集団にも、集団の個性のようなもの、いわば“集団の気風(組織の風土)”のようなものができてきます。このような集団の気風は、構成メンバーそれぞれの個性や態度、価値観、活動内容などが要素となり、それらの相互作用の産物として形成されてきます。

  4. ひとたび集団の気風ができ上がると、今度は、構成メンバーの方が集団からの影響を受けるようになります。たとえば、皆がまじめに真剣に取り組んでいるときに、一人だけがおざなりな態度は取りにくくなるし、皆が冗談ばかりいって、にぎやかに騒いでいるときに、自分だけが生まじめな態度を取り続けることは難しくなります。



このような集団のメカニズム(集団と個人との相互影響過程)を上手に利用して、相互啓発にふさわしいグループ作りを促進していくことが、相互学習法のやり方を成功させる大切なポイントになるのです。