能力開発データベース

■能力開発技法

コミュニケーション技法





概要 特徴と効果 実施・開発上の留意点 実施の手順

■概要

コミュニケーションは、通常、「言葉」という手段を使って行われると考えがちです。言葉という道具がなければ、コミュニケーションはやりにくいものですが、言葉は不完全な道具であることも忘れてはなりません。

同じ言葉を使っても、伝える側と受け取る側とでは、その解釈や語感などが食い違っていることが少なくありません。正確にコミュニケーションするには、「言葉」以外に、「態度あるいはジェスチャー」と「声の調子」が、大きく関わっているとみる理由がここにあります。

コミュニケーションにおいては、こちらが伝えた通りに伝わるものと考えるのではなく、相手が受け取った通りに、相手が理解し、解釈した通りに伝わっていくものと考えるべきです。

コミュニケーション技法とは、このような難しいコミュニケーションを効果的に実施できるような技能・技術・態度を総称するものとして捉えます。


■特徴と効果

コミュニケーションは、意志、感情や事実、情報の伝達(指示、命令、報告、連絡、相談)であり、相互理解の促進であり、人間関係の改善を促します。

職場でのパフォーマンスは上司、部下、さらには関係する人たちの人間関係に大きく左右されます。パフォーマンスが低下している時には、よくこの人間関係にも何か問題があることが推察できます。人間関係の問題は、コミュニケーションの不足に起因していることが多いということができます。

コミュニケーションにおける意味の伝わり方を研究したアメリカの行動科学者アルバート・メラビアンは、言葉、声の調子および態度が意志の疎通に関わる率を[言動の3要素]として次のように発表しています。

意志の疎通(言動の3要素)

 言葉        7%
 声の調子     38%
 態度       55%

いかに言葉以外の非言語コミュニケーションの要素、つまり、外見、表情、姿勢、ジェスチャー、アイコンタクト、パラ言語などが大きく関わっているかがわかります。

コミュニケーション技法が開発を目指すのは、このような能力であり、ゲームやロール・プレイングなどの実習を通してコミュニケーション能力の開発を実感的に体験させようとするものです。


■実施・開発上の留意点

職場のコミュニケーションを促進させるためには、コミュニケーションに必要な能力を身につけるだけではなく、コミュニケーションを持とうとする積極的な姿勢を持つことが大切です。

コミュニケーションの能力を持っているという事実と、その能力を使おうという気持ちになることは、まったく違うことであることを認識して取りかかるべきでしょう。

下記は効果的なコミュニケーションの障害となるような言動の例です。この例を見ても、ちょっとした言動の違いで相手の感情に与える影響に違いがあることがわかります。まず、このことを理解させることが、その能力の開発を図る上で重要です。

  • 相手の話をさえぎる。
  • 相手の言うことを批判する。
  • 相手の考えを見下す。
  • 声を高める − 感情的になりすぎる。
  • 話を聞く前から心を決めていて、相手の言うことに耳を貸さない。
  • 相手が言い終わらないうちに、判断を下してしまう。
  • 自分の聞きたい話題にしか耳を貸さない。
  • 相手の話は重要でないと思い込む。
  • 否定的な表情を見せる(しぶい顔、眉をひそめる)。
コミュニケーションは、人間に関わる活動の全てに欠かせない要素であるといえます。コミュニケーションの能力を大きく分けると、伝達したり主張したりする能力と、傾聴し理解する能力とに分けられます。

■実施の手順

ゲームによる体験

伝言が正確に伝わらないで、イライラした経験は誰しもあるでしょう。コミュニケーションが何段階かを経ながら伝えられていくとき、伝達内容(メッセージ)には、とかく脱落(肝心のことが抜ける)、体着(尾ヒレが付く)、歪曲(よかれと思ったことが悪意に受け取られる)などの現象が生じやすく、ここから誤解やデマが発生したりすることになりやすいものです。

このようなコミュニケーションの難しさや、注意事項などを体験的実感的に習得させるために、様々なゲーム的な訓練技法が考案されています。

たとえば、ごく簡単なものとしては、「伝言ゲーム」などもその一例です。


[伝言ゲーム]

何人かの受講者がタテ一列に並び、1番前列の人から2番目の人へ、2番目の人から3番目の人へ・・・というように、順々に、多少の複雑さを伴った次のような伝言を伝えていきます。


<写真:伝言ゲーム>

「昨日の午後3時半頃、山中さんと村山さんと田中さんが、銀座6丁目の喫茶店「ロワジール」で、アイスコーヒーとレモンジュースとトマトジュースをうれしそうに飲んでいた」

このようなメッセージが次々と伝えられていくにつれて、次第に脱落や付着、歪曲などが生じていく有様を体験的に学習することができます。

コミュニケーション上の間違いを防ぐためには、次のような点に注意することが肝要です。

・又聞きはなるべく避ける。
・伝達の段階の数を減らす。
・正確にゆっくり話す。
・順序立てて話す。
・ときどき質問をはさむ。
・復唱して確認する。
・要点や数字はメモを取る。


[ツー・ウェイ]

話し手側が一方的に“ワン・ウェイ”で伝達しただけでは、メッセージは正確には伝わりにくい。聞き手側からの質問などを入れて双方通行(ツー・ウェイ)で話し合った方が、間違いが少ないといえるでしょう。このことを学習させるための研修技法として、次のようなやり方があります。

  • 多少の複雑さを伴った簡単な図形を二つ(AとB)用意する。
  • 初めはAを一方通行で伝達する。
  • 受講者の中から誰かひとりに教室の前に出てきてもらい、ボードの陰に立ってもらう。
  • そこから一方的に図形Aを口頭でメンバーたちに伝え、その通りに図形を写し取ってもらう。
  • 質問を許さないのはもちろん、声を出して反応を示すことも禁止する。
こうしたワン・ウェイなやり方の場合、正解率はきわめて低くなります。

  • 次に、Aと似たような別の図形Bの内容を伝達する。
  • 今度はメンバーからの質問を認めて、ツー・ウェイのやりとりをする。
このやり方の場合、メンバーの正解率は非常に高くなってきます。コミュニケーションはやはり、ツー・ウェイでやるべきであることに気づくことでしょう。


[傾聴訓練]

相手の言わんとする事を、相手の身になって真剣に傾聴し理解しようとする態度や姿勢のことを「積極的傾聴(アクティブ・リスニング)」といいます。

こうした態度や技能・技術を習得するために、提唱者のカール・ロジャースは、次のようなやり方を推奨しています(嘉味田朝功『問題解決の話し合い』(産能大学出版部)より引用)。

「ここで傾聴技能テストをする実験をご紹介しましょう。意見が対立して、人と激論を戦わすようなハメになったとき、ちょっと議論をやめて、これからの議論では次のような基本ルールを採用しようと提案してみてください。つまり、『議論の当事者は、どちらも自分の主張や意見を述べる前に、まず相手が今述べた論点や立場を、もう一度はっきりと声に出して言い直してみなければならない』というルールです。この言い直しは、自分自身の言葉でなければなりません(相手の言葉をただオウム返ししただけでは、言葉を聞いたという証拠にはなりますが、理解したという証拠にはなりません)。この言い直しが、話し手を満足させるほど十分正確であったならば、そこで初めて聞き手が自分の考えを話すことが許されるわけです」


<実習>

このやり方を研修技法として“実習”をするときには、具体的には次のような要領で進めていきます。

  1. まず話し合いのテーマを決める。全員が共通に話し合えるものを選ぶ。
  2. Aさんから初めて、Bさん、Cさんと順番に話す。右回りでも、左回りでもよい。話の筋がつながらなくてもよい。
  3. 次のBさんは自分の意見を述べる前に、前のAさんの発言内容を反復し確認して(自分の言葉で言い直して)から自分の意見を述べる。
    たとえば、「今、Aさんがおっしゃりたかったことは、コレコレこういうことですね」などと復唱する。そしてAさんから「はい、そうです」というOKをもらう。
    Aさんは、自分のいいたかったことと違っていると思ったら、率直に「違います」という。
  4. BさんはAさんのOKをもらってから自分の意見を述べる。
  5. このようなやり方を6〜7人のグループの中で全員が3回ずつ体験できるようにグルグルと回していく。

<反応>

このような実習をしたあとで、受講者たちに感想を求めてみると、よく出てくる意見は次のようなものです。

  • とても疲れる。
  • 普段、いかに人の話を聞いていなかったかを痛感する。
  • 傾聴の重要性を再認識した。
  • 話す側も、わかってもらえるように話す努力が大切です。
  • 聞いてもらって、分かってもらうと、何かほっとした感じがする。
  • 日常生活の中でも訓練する心がけが大切です。

[アサーション]

アサーション(Assertion:断言・主張)またはアサーティブ・トレーニングとは、自己主張や自己表現などの積極的な行動を開発し促進するための訓練です。

実施においては、まず次のようなテストがなされます。

@あなたが店で買い物をして外へ出てから、釣り銭が100円足りないことに気づきました。
さて、どうしますか。
A買い物をして家に帰って品物をみたら、少し傷が付いているのを見つけました。どうしますか。
B列に並んでいるときに、もし誰かがあなたの前に割り込んできたら、どうしますか。
Cステーキをレアで頼んだのにウェルダンで持ってきました。どうしますか。

いずれの場合も当然に自己主張をすべき状況ですが、反応の仕方は人によってさまざまに異なります。大きく分けると、屈従的、攻撃的、積極的(アサーティブ)の三つに分けられます。

たとえば、ステーキをレアで頼んだのにウェルダンで持ってきた場合は、それぞれが次のような反応のパターンとして現れます。

@屈従的
店員には何もいわないで、ブツブツと独り言を言いながら、出されたものを食べる。内心では自分の意気地なさに情けなくなる。

A攻撃的
「おい、ウェルダンじゃないぞ。レアを頼んだんだぞ」と店員を怒鳴りつける。相手も周囲の人も不愉快にさせ、また自分もあとで自責の念にかられたりして後悔する。

B積極的(アサーティブ)
卑屈にもならず、攻撃的にもならないで、おだやかに、しかし、きっぱりと、「ウェルダンではなく、レアをお願いしたのですよ」と自分の意思を表明する。

このような積極的(アサーティブ)な行動を徐々に段階的に開発し形成していくために、主としてロール・プレイングによる実習がなされます。

なお、アサーティブ・トレーニングのロール・プレイングにおけるフィードバックの時は、できる限り本人の演技の中でよかった点を見つけて、ほめたり励ましたりすることが大切です。良くない点は「もっとこうした方がよい」というアドバイスの形にして提示します。

批判的なフィードバックは、なるべく避けた方がよいでしょう。アサーティブ・トレーニングでは、積極性の足りない、引っ込み思案な人に対して、思い切って積極的自発的に行動できるように促進していくことが訓練の目的だからです。