能力開発データベース

■能力開発技法

メンバーシップ・サーベイ





概要 特徴と効果 活用の仕方 実施・開発上の留意点

■概要

グループ活動を中心にした研修活動を展開しているとき、研修の日程がかなり進行し、グループとしての雰囲気が成熟したものになってきたところで、メンバー同士で、お互いの態度や行動などについて感じたことや気づいたことを相互にフィードバックし合い、成長のための相互理解を行うことがあります。いろいろなやり方のなかで、比較的系統的なやり方として、「メンバーシップ・サーベイ」というやり方があります。


人間は、誰でも、漠然としながらも、「自分とはこういう人間である」というイメージを抱いています。これを「自我像」といいます。そして、誰でも、うぬぼれもあれば、ひけめもあります。これが、とかく他人が自分を見る目との間にズレを生じやすいのです。
うぬぼれは、他人の目から見れば、単なる思い上がりにすぎないことが多いものです。



このような「つもりの自分(自己認知)」と「はた目の自分(他者認知)」とのズレを系統的に診断するやり方が「メンバーシップ・サーベイ」のやり方です。

■特徴と効果

我々は、自分のことは自分が一番よく知っているつもりでも、意外と自分の本当の姿は見えていないものです。ギリシャの哲学者ソクラテスの最大の教えが「汝自らを知れ」であったことからもわかるとおり、自分自身を知ることは、なかなか難しいことです。
メンバーシップ・サーベイでは、自分の本当の姿を、他人の目という鏡を通して理解しようというものです。

人間には、自己防衛的な心理的メカニズムが働くため、どうしても、自我像には、盲点が出来て、ゆがんだものになりやすいのです。

たとえば、自分では心の広い暖かい人間であると思っている人が、他人から「あなたは冷たい人だ。私の気持ちを少しも分かってくれない」といわれると、「いや、そんなことはないよ。君の受けとめ方がおかしいんだよ」といって、他人の目に映っている”人の気持ちを理解しない冷たい人間”という自分についてのイメージを認めようとしないのです。

このような認知の歪みを正して、自己を冷静に謙虚に洞察できるようにするのがメンバーシップ・サーベイのねらいであり、この自己洞察が人間的な成長を促進するきっかけとなるのです。


■活用の仕方

  1. まず「メンバーシップ・サーベイ」の用紙と「回答用紙」をメンバーに配布します。「回答用紙」の「他者」の欄にはグループの他のメンバーの名前を書きます。

  2. それぞれのメンバーは、研修のグループ活動の中での他のメンバーの行動や自己の行動について、このサーベイの書式に従って、感じたままを率直に回答していきます。

  3. このサーベイのやり方は評定尺度法のやり方です。

  4. 回答は数字(得点)で記入します。

  5. 評定要素(評価項目)は、目標達成(パフォーマンス)のP行動が7項目、集団維持(メンテナンス)のM行動が7項目の合計14項目。

  6. 尺度(評価基準)は、回答用紙の下の欄に書いてあるとおり、5段階です。つまり、5が「十分」、1が「不十分」、3が真ん中で「どちらともいえない」ということになります。

メンバーシップ・サーベイ

<目標達成(P)行動>

1. 課題に対して真剣に取り組んだか  (真剣)
2. 課題の主旨を的確に把握していたか (的確)
3. 自分の意見を遠慮せずに主張したか (主張)
4. 討議を深く掘り下げようとしたか (深化)
5. ゆきづまりを打開しようと働きかけたか (打開)
6. 話題がそれたとき本題に戻そうとしたか (本題)
7. 納得ずくで結論を出そうと努力したか (納得)


<集団維持(M)行動>

8. 相手の意見を傾聴し理解しようとしたか (傾聴)
9. 言葉の奥の気持ちもくみ取ろうとしたか (共感)
10. 心からグループにとけこもうとしたか (仲間)
11. 消極的なメンバーを勇気づけたか (援助)
12. 優れた意見に賛成したか (率直)
13. 仲間から学ぼうとする姿勢はあったか (啓発)
14. 対立や葛藤を調節しようとしたか (調整)


次に、サーベイの「集計用紙」を配布して、「回答用紙」から「集計用紙」に転記して集計をします。やり方は次の通りです。

  1. メンバーは各自、自分の「集計用紙」は自分の手元にとどめておいて、「回答用紙」を次々と右となりのメンバーに回していきます。「回答用紙」の上の欄の氏名(たとえば、夏目漱石)は、回答した人の名前であり、他者の欄の氏名(たとえば、福沢諭吉)は、その回答者が評価した仲間の名前です。

  2. 集計する人(たとえば、福沢諭吉)は、左となりの人から回されてきた回答用紙(たとえば、夏目漱石が記入したもの)を見て、その人が自分に対してつけている得点を自分の集計用紙のその人の欄(夏目漱石の欄)に転記します。

    図表の場合の例で言えば、夏目漱石氏は福沢諭吉氏に対して、「真剣」「的確」「主張」の各項目は、それぞれ[4][2][3]と評価しているので、この数字を自己の集計用紙の該当欄に記入していきます。

  3. 以下、同じ要領で、次々と他のメンバーの回答を集計用紙に書き込んでいきます。なお、「自己」の欄も忘れずに転記します。






メンバー全員の回答を集計用紙に転記する作業が終了したならば、これらを集計する作業に入ります。

  1. まず、「真剣」「的確」「主張」などの各項目ごとに、ヨコに足し算をしていって、その合計の数字を「合計」の欄に記入します。

  2. 次に、合計の数字を他のメンバーの数(仲間の人数)で割り算をして平均を計算して、「平均」の欄に記入します。平均は、小数点以下2位を四捨五入して、小数点以下1位までを計算します。

  3. さらに、今度は、タテにP行動の「平均」の欄の合計と平均、および「自己」の合計と平均を計算して、P行動の欄の一番下の「平均」の欄に記入します。M行動についても同じ要領で計算して記入します。

  4. 最後に、集計の結果は、「プロフィール」の用紙に転記します。ここに記入する数字は「平均」の数字です。「プロフィール」の右の欄のその数字に該当する個所に、自己は○で、他者はXで印をつけていきます。そして、それぞれの印をつけた箇所を一番上の項目から一番下の項目まで、自己は実線で、他者は点線で、つぎつぎと結んでいきます。例を示せば、「プロフィール(2)」のとおりです。

このようなプロフィール(折れ線グラフで表示)が描けると、自己認知と他者認知とのズレが判然とします。

とりわけズレの大きい箇所は注意が肝要です。なお、右よりの箇所と左よりの箇所との曲線の曲がり具合にも、いろいろと微妙な意味合いが含まれていることが多いものです。


■実施・開発上の留意点

メンバーシップ・サーベイのようなやり方は、メンバー同士で、お互いの人格に関わるようなことをフィードバックし合うわけですから、その進め方については、細心の配慮をすることが必要です。お互いに人間的な成長を援助し合っているのだということを理解しておくことが重要です。

このようなやり方の背景を説明している考え方として、有名な「ジョハリの窓」があります。


[ジョハリの窓]
これは、ジョー(ジョセフ・ルフト)とハリー(ハリー・インガム)という二人の提唱者の名前を合成して作られた用語で、そのあらましは次の通りです。

「ジョハリの窓」の考え方によれば、人間の心には、図表のように、四つの領域があります。

  • Aの「開いた窓(オープン・ウィンドウ)」は、自分にも他人にもわかっていて、自然にのびのびとふるまえる領域です。

  • Bの「隠した窓(ヒドゥン・ウィンドウ)」は自分ではわかっているが他人には隠している領域です。いわば水くさい部分であり、他人との関係も不自然なものになりやすい部分です。

  • Cの「盲目の窓(ブラインド・ウィンドウ)」は、他人からは丸見えだが、知らぬは本人ばかりで、本人自身が気づかず自覚していない領域です。これは、他人との間にズレや行き違いを生じる原因となりやすいものです。

  • Dの「暗い窓(ダーク・ウィンドウ)」は、自分にも他人にも分からない無意識の領域ですが、未知の可能性が潜在している部分であり、人間が社会的に成長していく上での重要な源泉となりうるものです。






この四つの窓のうち、「開いた窓」を大きく広げて、「暗い窓」を小さくすることが肝要です。このことを「セルフ・アウェアネス(自己への気づき、自己覚知)」または「セルフ・インサイト(自己洞察)」といいます。これが人間的な成長を促進して、周囲の人々との対人関係を良好なものに改善していくきっかけとなるのです。そのためには、仲間の援助が必要です。

さて、タテにA→Bの窓を広げるためには、自分の気持ちを隠さずに率直に話すことが必要です。ヨコにA→Cの窓を広げるためには、仲間からの謙虚な指摘が必要であり、その指摘を傾聴し、受容することが大切です。このようにして、Dの「暗い窓」が小さくなってくるにつれて、今まで気づかなかった意外な自分が再発見されてくるのです。

たとえば、自分は部下に対して厳しいだけの上司だと思い込んでいたが、意外と他人に対する思いやりの気持ちを持っていることに気づいたり、あるいは、自分は気の小さい臆病な性格だとばかり思っていたが、結構、負けん気もあり、芯の強さも持っていたことを発見したりします。このような”自己への気づき”が人間を飛躍的に成長させていくきっかけとなり、行動改善、態度変容への動機付けとなっていくのです。