能力開発データベース

■能力開発技法

カウンセリング





概要 特徴と効果 活用・開発上の留意点

■概要

家庭や職場などの日常生活の中で、自分一人では解決できない問題を抱えて悩んでいる人のために、相談を受けて、助言や指導、援助を行うことです。相談する人をクライエント(来談者)、相談に乗る人をカウンセラーといいます。

カウンセリングの源流の一つは、20世紀初頭にアメリカで実施されていた職業指導運動にあるとされています。これは個人を対象として、どのような職業が向いているかを指導することを目的とする活動でした。当初は職業内容の分析に関心がおかれていたものが、やがて職業の内容よりも、相談にきた個人の適性や問題に重点が置かれるようになり、個人指導が中心となってきたものです。

カウンセリングは、教育訓練の技法としては、受講者の態度の変容や人間的な成長を促進する技法として、きわめて重要な技法といえます。


■特徴と効果

最近はカウンセラーがクライエントに助言や指示を与えないやり方が推奨されています。

これは「ノン・ディレクティブ(非指示的)」または、クライエント・センタード(来談者中心)」ともいわれています。この場合、カウンセラーは、もっぱら聞き役となるのが特徴です。

クライエントが吐き出す悩みや、不満、うっぷんなどの感情に対する共感的な伴奏者となることによって、クライエントが自分の力で自分の問題に気づき、解決できるようになり、人間的に成長していくのを援助します。


■活用・開発上の留意点

クライエント・センタードのカウンセリングを提唱するカール・ロジャースは、カウンセラーのとるべき基本姿勢として、「受容」と「共感」と「純粋」の3つをあげています。

  1. 受容
    クライエントの考えや気持ちや存在そのものを、あるがままに、好きとか嫌いとか、良いとか悪いとかをいっさい抜きにして、ありのままを許容して、クライエントに対して無条件の積極的肯定的な配慮や関心を抱くことである。

    職場においては、上司が部下に対して関心を持ち、注目をし、それを示し続けることは、部下にとって意欲をかきたてる非常に大きな要因といえる。無条件に関心を持つというのは、仕事ができる部下ばかりではなく、失敗を重ねる部下、相性のよくない部下にも積極的な関心を払い続けるということである。

    管理者のこのような姿勢は、直接、間接に部下に伝わり、職場の風土作りに大きな影響を与えることになる。

  2. 共感
    「共感的理解」ともいう。
    相手の身になって相手の気持ち、感情を分かろうとすることであり、相手の心の世界をあたかも自分自身のものであるかのように感じようとすることである。たとえば、坂道を息を切らせながら駆け登っていく人の息苦しい気持ちが、それを見ている人に感染して、あたかもわがことのように、その息苦しい気持ちを感じ取ることである。

    相手の感情に共感するということは、それをそのまま認めてしまうということではない。職場では、悩みを抱えている部下、自分に批判的な部下の気持ちを理解することは重要であるが、その気持ちに共感できることと、それが正しいということとは同じではない。管理者によるカウンセリングの難しさの一つには、こうした立場からくる共感の示しにくさにあるといえる。

    管理者によるカウンセリンがどこまで成功するかは、管理者が自らの立場の制約を超えて、どれほどの共感を部下に伝えられるかという点にかかっているといってもよい。

  3. 純粋
    「自己一致(コングルエンス)」ともいう。
    カウンセラーが自分を偽らず、自分自身に対して誠実なことであり、あるがままの自分を受容していることをいう。たとえば、自分がクライエントを嫌ったり恐れたりしているとき、それをごまかさないで、素直にそのことを認めて自らを許していることである。

    職場では、管理者が責任を負っているのは自明である。部下の言葉に共感し難かったり、意見として採り入れ難かったりすることも、当然あり得る。こうした制約はあって当たり前と理解し、場合によっては自分の気持ちを素直に示した方がよいこともある。

    カウンセリングは人間と人間のぶつかり合いである。自分の感情を見失わないことが大切である理由がここにある。

カウンセリングの場面で、特に重要とされるのは、カウンセラーの受容的な態度や共感的な理解です。

クライエントは、カウンセラーの態度や理解に支えられて、自由で安全な雰囲気の中で、“心のヨロイ”を脱ぎ去り、いいわけがましい自己防衛的な構えや抵抗を捨てて、素直な気持で自分の心の奥を見つめるようになっていきます。

このような自己洞察を通して、未成熟な態度から脱皮して、自立的で協調的な行動がとれるようになり、人間的に成長していくのです。


■ロジャース (C.R.Rogers : 1902-1987)

アメリカの臨床心理学者。 シカゴ大学心理学教授兼カウンセリングセンター所長。アメリカ臨床心理学会長。
ロジャースは、わが国においては非指示的心理療法(non-directive psychotherapy)の提唱者として知られている。
1930年代のアメリカにおいては、指示的心理療法(directive psychotherapy)が盛んであった。診断を行なうものはカウンセラーであり、カウンセラーが診断に基づいて治療方法を指示するというやり方、カウンセラー中心の指示的療法であった。
これに対してロジャースは、クライアントの自己治療能力を信頼し、カウンセリングにおける主導権をクライアントに委ね、カウンセラーは助言や指示を与えてはならない、と主張した。彼の心理療法が非指示的心理療法といわれる理由である。この時期の代表的な著作として、1942年の「カウンセリングと心理療法 (Counseling and Psychotherapy)」がある。