能力開発データベース

■能力開発技法

質問法





概要 特徴と効果 実施の手順 実施・開発上の留意点

■概要

質問法という技法は、日常生活のいろいろな場面で、医師の問診や、新聞記者のインタビューなど、幅広く活用されています。教育訓練の場においても、この技法を効果的に活用することによって、受講者が何事かを発見し、学習するという啓発効果をもたらすことができます。

つまり、質問法とは、講師が受講者に質問を投げかけて受講者の回答を引き出し、両者の問答を繰り返すことによって、受講者が自分で正しい答に到達できるように導いていく学習指導法です。


■特徴と効果

教育に質問の技法を用いるやり方は、洋の東西を問わず、大変古くから行われてきました。

古代ギリシャの哲学者ソクラテスは、相手に質問を投げかけ、相手と問答を繰り返すことによって、相手が自分で正しい概念や法則に到達できるように援助し、このようなやり方を「産婆術」と名付けました。
東洋でも、禅宗などでは、子弟の問答によって教義の理解を深めるというやり方が重要な手段とされてきました。

このような質問法(あるいは問答法)というやり方は、受講者に何かを教え込むというやり方ではなく、受講者が自分で考えて自分で答を見つけ出すように導いていくというやり方で、現代の「発見学習(ディスカバリー・ラーニング、またはヒューリスティック・メソッド)」の源流ともいうべきものです。

つまり、この技法の特徴は、受講者が自分で考えて自分で回答を発見していくという点にあり、これによって受講者が主体的に問題解決に取り組んでいく態度や能力を養成することが期待できることになります。


■実施の手順

質問の仕方には、大きく分けて二つのやり方があります。

一つは、限定的な質問の仕方で、「イエスかノーか」あるいは、「AかBか」というように、二者択一的な回答を求めるやり方です。これに対して、もう一つのやり方は、拡大的な質問の仕方で、いくつかの多様な回答を想定する「自由に答えられる」ような質問の仕方です。

  1. 「はい、いいえ」または「二者択一」で答えられる質問

    事実の確認とか相手の意見を確認するようなときに効果的に使うことができます。
    たとえば、「◯◯という案を採用することはプラスと思うか、マイナスと思うか」とか「◯◯を導入することは是か非か」あるいは、「賛成か反対か」というように、狭い限定的な範囲で回答を求める質問の仕方です。
    「◯◯ではないのですか」というように、「はい」または「いいえ」という回答を想定したような質問も、この部類に入ります。

  2. 自由に答えられる質問

    相手が何の制約もなく、自由に答えられる質問の仕方です。「はい、いいえ」で答えられないほか、「誘導されている」とか、「択一を求められている」と相手に感じさせません。また、背後に質問者の判断が見えない質問です。この質問を発することによって、より多くの情報を相手から入手することができます。
    たとえば、次のような質問の投げ方をすることです。

    • 「◯◯の品質を安定化させるには、どうしたらいいと思いますか」
    • 「今の職場の雰囲気について、どう思いますか」
    • 「なぜ、そういうことになるのでしょうか」
    • 「この問題について、どんな事情があったのか説明して いただけませんか」
    • 「どんな点が難しかったですか」

  3. 拡大的な質問の発展(1)「なぜ?」「どうして?」

    「なぜ?」「どうして?」という質問は、状況を掘り下げ(垂直展開)、原因や本質を考えさせるのに効果的な質問です。

  4. 拡大的な質問の発展(2)「他には?」

    「他には?」という質問は、相手から情報を引き出す(水平展開)のに効果的な質問です。代替案や別の要因、本音など、相手の考えを引き出すのに役立ちます。

  5. 拡大的な質問法は、

    受講者に幅広い角度から、多様で創造的な発想を促進し、新しい発見に到達する可能性が高いのですが、反面、人によっては発想が出にくいという難点があります。その場合は、「どうして?」とか、「そのほかには?」とか、「たとえば、……」というような質問を入れると、発想が出やすくなります。それでも発想が出てこないような場合には、限定的な質問によって回答を導きだしてしていくことになります。 限定的な質問法は、誘導質問と受け取られたり、あるいは強く迫るような調子でやると、非難された詰問と取られて、ますます萎縮させることがありますので、注意が肝要です。

    質問法の基本形は、一対一の場面での問答法ですが、複数のメンバーによる会議形式の場合でも、原理はほとんど同様で、進め方が多少複雑になるだけです。

    会議形式の場合は、対象者の全体に対する全体質問と特定の個人を指名する指名質問とに分類することができます。
    また、受講者からの質問を受けたときには、他のメンバーにバトン・タッチをする「中継ぎ法」や本人に投げ返す「投げ返し法」などのやり方があります。これらについては、「講義法」の項目を参照して下さい。

■実施・開発上の留意点

「学習をする主体は生徒であり、教育とは生徒が学習するのを援助することである」という考え方のことを「スチューデント・センタード」といいますが、この考え方にもとづいて研修を進めていくときに、有力な示唆を与えてくれるのは、発見学習という考え方です。発見学習とは、問題の中から、生徒が自ら答えを見つけ出せるように仕向けていく教育のやり方です。

発見学習には、大別して、全く受講者独自の力で発見させるインディペンデントなやり方と、ガイドつきのやり方とがあります。受講者の自発性や動機づけを高めるのには、インディペンデントなやり方のほうが効果は大きいのですが、必ずしも受講者全員が発見に到達できるとは限らないので、学習の効率を考えるならば、受講者が答を発見しやすいように、ガイドするやり方のほうが現実的です。

質問法は、このような発見学習の理論を基盤にしています。ですから質問法を効果的に展開していくためには、拡大的な質問を投げかけることによって、インディペンデントな発見を促しながら、要所要所に限定的な質問を挿入して、効率よく受講者の回答の発見をガイドしていくことが大切です。