能力開発データベース

■能力開発技法

イン・バスケット





概要 特徴と効果 実施の手順 実施・開発上の留意点 その他

■概要

イン・バスケットとは、もともとは決裁書類を入れる既決・未決箱のことです。能力開発技法としてのイン・バスケットのやり方では、決断を必要とするような数多くの書類を受講者に与えて、限られた短い時間の中で、次々と決断をさせていくことによって、受講者の思考や判断の能力を養成しようとするものです。

未決箱に入っている20〜30枚の断片的な情報、書類を、部・課長の役割を与えられた参加者が、重要度、優先度などを判断しながら、次々に既決箱に処理していきます。

時間は、通常30分前後を与えるが、オプションとして、途中で間違い電話や中断用件などを割り込ませたりして、心理的プレッシャーを加えることもあります。

また、管理者への昇格時のアセスメントのひとつとして、限られた時間内にいかに的確な意思決定をしていくかなど、参加者の管理者としての能力を観察する手法としても使われます。


■特徴と効果

イン・バスケットの実習を通して、受講者の次のような能力を開発することが期待できます。

  • 複雑に錯綜する様々な情報を効果的に整理し、分析する能力。
  • 情勢を判断して的確に意思決定をする能力。
  • 事柄の重要性や緊急性などを判断して、いくつかの処理事項の優先順位を決定する能力。
  • いくつかの事柄の相互の関連を的確に把握する能力。
  • 限られた時間内で多くの案件を効率的に処理できる能力。

■実施の手順



イン・バスケットの実施の手順は、
次の通りです。
@受講者一人ひとりの個人研究が中心となる。
Aそれぞれの受講者に対して、20通から30通くらいの未決案件の書類の入った「未決箱(イン・バスケット)」が手渡される。
B受講者たちは30分(場合によっては、45分ないし60分)の限られた時間の中で、それらの案件に対する処理策を考えて、その内容を所定の形式に従って書き出していく。
C実習の途中で、電話がかかってきたり、不意の来訪者など設定したりして、意図的に作業を妨害して、受講者に心理的なプレッシャーを与えていくこともある。
D個人研究が終了した後、各自の処理案を持ち寄って、グループでディスカッションをすれば、相互啓発の効果を高めることができる。

  1. 課題指示

    受講者に対しては、次のような課題の指示がなされます。

    これから30分間、あなたには、××株式会社△△工場の○○総務課長になっていただきます。
    あなたは、ごく最近、総務課長になったばかりです。以前はよその工場に勤務していました。
    今日(○月○日)、午前9時、あなたは初めて新しい職場に出勤しました。あなたの机の上には、前任者からの引き継ぎで、たくさんの書類の入った未決箱(イン・ボックス)が置かれています。それらの書類の多くは、あなたに何らかの決裁を求める未決案件か、または何らかの情報を提供するものです。
    あなたは、これから、それらの書類に目を通して、何らかの処理を決断してください。その処理の内容は、手紙とかメモとか、必ず何らかの文書に書き出してください。宛先や日時などが必要なものは、それも明記してください。誰にも相談しないで、ひとりで決断してください。質問することもできません。
    制限時間は30分です。


  2. 案 件

    たとえば次のような未決案件が受講者に提示される。案件の数は、所要時間の長さに対応するが、およそ20通から30通くらいである。

    ○年○月○日
    総務部長△△
    ◇その1
     総務課長 殿
    総務部来年度予算編成の件

    総務部としての来年度予算編成の時期が近づきました。総務課としての見積もりを○月○日までに提出してください。昨年度はかなり予算オーバーになりました。その原因を調査してください。添付の資料を参照してください。また、関係当事者から事情を聴取してください。

    以上

    ◇その2
     総務課長 殿
    ○年○月○日
    庶務係××
    休暇願い

    数ヶ月前から内臓の病気を患っていた実家の父の容態が、ここ2、3日、急変したとの知らせがありました。申し訳ありませんが、○月○日から○月○日までの1週間、休暇を下さいますようお願いいたします。

    以上

    ◇その3
     総務課長 殿
    ○年○月○日
    営業部長××
    A社よりの工場見学のご依頼について

    日頃お取引きをいただいているA社の技術部長より、工場見学のご依頼がありました。下記の要領で計画を立てましたので、ご協力のほどお願いいたします。

    日時  ○月○日 10:00〜15:00
    来訪者 A社技術部員 12名
    日程  午前 工場見学
        午後 質疑、懇談

    以上


  3. 評 定

    実習が終了した後で、受講者が自分の処理の仕方について自己評価をしたり、または、グループ討議の中でメンバー同士で相互評価をしたりするときには、次のような「評定表」を用意して活用すると便利です。

     (1)事柄の相互の関連を把握していたか。
     (2)問題の要点を的確に捉えていたか。
     (3)重要度合により優先順位を考えたか。
     (4)作業は時間内に能率よく行ったか。
     (5)関係する人たちに十分に配慮したか。
     (6)誰かに任せるべきことは任せたか。
     (7) 大局的な見地から判断ができたか。
    

■実施・開発上の留意点

イン・バスケット法は、主として受講者の知的能力を養成することをねらいとするものであり、文章を読み取ったり、文章に書き表したりする能力が、かなり重要な比重を占めています。研修の責任者は、どこに重点を置くか、あらかじめ方針を明確にしておく必要があります。


■その他

イン・バスケットは、研修の技法として活用されるだけではなく、管理職や管理職候補者の能力を評価・査定するための「ヒューマン・アセスメント」の技法としても利用されることがある。

ヒューマン・アセスメントとは、企業の中の人間、特に管理職の能力を評価・査定すること、およびそのためのやり方のことです。管理職または管理職候補者に対して、イン・バスケットを実施し、グループ討議などをさせて、その過程を観察表などによって多面的に評定しようとするものです。