能力開発データベース

■能力開発技法

シミュレーション





概要 特徴と効果 活用の仕方 その他

■概要

もともとは模擬、仮装、見せかけ、という意味です。現実の自然現象や社会経済的現象などと似た状態や模型(モデル)などを作り、コンピューターによる計算などによって模擬的に演習や予測計算、意思決定などを行います。シミュレーションは、コンピューターを利用した経済予測、需要予測、模擬実験や、模擬訓練、ケース・スタディロール・プレイングビジネス・ゲームなどによる教育訓練に幅広く利用されています。

対象となるモデルは、実際には体験でき難いものであり、直接的に体験、研究できるのであれば、シミュレーションの必要性は少ないといえます。


たとえば、飛行機のパイロットを養成するために、実際のコクピットと同じような訓練装置(シミュレーター)を作り、このシミュレーターの装置を使って模擬訓練をする場合がありますが、これをフライト・シミュレーションといいます。


シミュレーションの教育への利用を大きく分類すると、

    @ 定型化されたシミュレーション教育

    A ゲームによるシミュレーション教育

    B ケース(自由劇)によるシミュレーション教育

の3つになります。これは、タンゼー(Tansey,P.J.)による提案であり、教育シミュレーションの考察から図のようなモデルを提示しています。

パソコンのめざましい発展を受けて、能力開発のためのシミュレーション用の機器も、大きくその範囲および可能性を拡大し、シミュレーションそのものの重要性も増大してくることが予測されます。

<シミュレーションの教育に関するモデル>


■特徴と効果

シミュレーションの特徴としては、次のようなことがあげられます。

  • 何回でも同じ環境を作り出すことができる。
  • 何回でも異なった対応をテストすることができる。
  • 能力開発を確認しながら実施できる。
  • 他の条件に左右されることが少ない。
  • 生命の危険を伴うことがない。
  • 装置によっては、多額の費用と時間を必要とする。
宇宙飛行士の訓練にシミュレーションが活用されていることは、よく知られるところです。実際にロケットを何回も発射させて実地の経験を積ませることは不可能でしょう。 シミュレーション訓練では、実際の状況に近いモデルを設定して、実地に近い体験を反復して経験させることができるのが大きなメリットです。未経験の初心者にいきなり宇宙飛行をさせることなく、十分な経験者として、任務に就かせることができます。

シミュレーション・ゲームでは、経営戦略、意思決定等、実体験に近い環境の中で何回でも実施可能です。また、ロール・プレイングでは、実際の顧客の前では失敗が許されないケースを、何度も条件を変えながら、訓練を繰り返すことができます。そのため、シミュレーションの教育への適用は、教育の標準化、効率化にとどまらず、コスト的にも有効な方法といえます。


■活用の仕方

シミュレーションを研修に活用するときには、次のような要領で行います。

  1. 定型化されたシミュレーション教育

    装置や機械を使って行う。

    @まず習得させたい知識や技能・技術などの目的に応じて、目的達成に必要なシミュレーター装置・モデルを設計・制作する。
    Aシミュレーターは出来る限り現実に近い状況や条件を設定する。たとえば、自動車運転のシミュレーション教習では、急なカーブがあったり、追い越しがあったり、対向車があったりする。
    B訓練生が誤った操作、判断をした場合には、危険を知らせるなどのフィードバックの仕組みを組み込んでおく。
    C設定する状況は、初めは易しいことから、次第に難しいものに設定していく。

  2. ゲームによるシミュレーション教育

    ビジネス・ゲーム、マネジメント・ゲーム等に代表される方法である。

    @開発のステップは、定型化されたシミュレーションのやり方に準じて行う。
    Aゲームは、本質的に他者、他チームとの競合であり、競合のためのルールを組み込む。
    Bシミュレーション(教育)の目的によってルール作りに変化をもたせる。
    C現実の場面設定を配慮することにより、十分な教育効果を期待できる。

  3. ケースによるシミュレーション教育

    教育に利用されるシミュレーションの第3の要素はケース(自由劇)である。主要な問題提示の方法には、次の3つがあげられる。

    @ケース・スタディ的手法
    Aロールプレイング的手法
    Bイン・バスケット的手法

シミュレーション訓練では、シミュレーター装置を使ったものに限らず、ケース・スタディやビジネス・ゲームなどの机上のシミュレーション訓練の場合でも、活用の仕方はほぼ同様です。

■その他

囲碁、将棋、麻雀(マージャン)などは、中国古代の春秋戦国時代の部将たちがいかにして敵軍に勝つかの戦略や戦術を練るために考え出したもので、いわばシミュレーションの原型ともいうべきものです。

シミュレーション的手法の教育への適用および開発は、アメリカのカーシュ(Kersh,B.Y.)の例が最初期であると考えられます。16ミリ映写機3台を使用した、教授スキルを訓練するために開発されたものです。日本での適用例としては、東京工業大学・坂元昂教授による「机上授業による授業設計方法の開発」、京都教育大学・西之園晴夫教授による「教員研修のためのシミュレーションゲーム」があります。

最近ではコンピューターを使って高度な計算を行うものや、シミュレーション・ゲームなどにもコンピューターが幅広く活用されています。

コンピューターを使うまでもなく、ビジネスにおける経営戦略のケース・スタディ、軍事の図上作戦、医療の症例研究、法律学における判例研究などは、いずれもシミュレーションの性格を持つものでしょう。