平成8年5月から同年12月までの約8ヵ月間にわたって開講された「海外技術研修員集団研修課程職業訓練指導員コース」が終了し,その閉講式がさる12月19日当大学校内で行われました。
今年度この課程を修了した研修員の皆さんは,アジア,オセアニア,中近東,アフリカ,中南米および欧州の27ヵ国からの46名です。
閉講式終了後,研修員の皆さんは,キャンパス内敷地で記念植樹をすませ,続くパーティーでは長期間に及ぶ研修を無事終えた喜びにひたっていました。
平成8年度の「全国総合技能展」が,平成9年1月22日から24日にかけて東京北の丸公園内の科学技術館で開催されました。
当大学校からは,主に8点を出品しました。そのほか長期課程2年生が昨年12月に公共職業能力開発施設を見学した際にまとめた感想文集および4年生の実務実習感想文集,また長期課程部教員による学内外発表論文・講演集等もあわせて展示されました。当欄では,出品されたもののうちから4点を誌上でご紹介します。
(誘導電動機の固定子巻線設計・製作・試験から,ベクトル・FAM制御まで)
本出品物は,小型のかご形誘導電動機をべースにして,自作テキストに従い,これの固定子巻線の設計・製作から,ベクトル制御を行うまでの過程を通して,電機システム,モータドライブ,半導体電力変換回路および最新制御理論の実用化等,パワーエレクトロニクス全般の知識・技術・技能を習得させるための実習用教材である。
昨年度はアナログ素子を中心としたベクトル制御教材を展示したが,本年度は主としてパソコンを用いたソフトウェア制御教材を展示した。
本教材は,当校での専門第2期研修,高度化研修,ハイテクロボット制御コース(国際)および長期課程用のものである。
(電気工学科)
近年,OA化,FA化に伴いコンピュータ周辺機器が急速に発達している。これらの周辺機器に使用される可動部には直線運動をするものが多い。そこでリニア電磁アクチュエータとして可動磁石形リニア直流モータの教材化を試みたものである。
(電気工学科)
半導体レーザのエーレ特性,偏光特性を測定し,半導体レーザにAM変調を加え,光伝播による基本的な光通信の実験を行うものである。
(電子工学科)
本システムは,機械制御要素・電気制御要素の保全を目的とするコンベア制御装置であり,多種多様なトラブルシューティング実習が可能である。また,機械器具の日常点検を行うために必要な点検の項目や基準,方法,機器についての知識能力を習得することを目的としたものである。
(開発研究部)
本大学校建築工学科を平成8年3月に卒業した田原明生さんが,卒業研究としてまとめた「近世木割書に基づく永慶寺禅堂・斎堂の復元研究-黄檗派寺院建築のCADによる事例分析-」により平成8年度の「優秀卒業論文賞」(日本建築学会)を受賞しました。卒業論文賞への応募は,43大学から69編に及び,この中からの受賞です。
卒業研究の内容は,近世の黄檗派による寺院建築の事例研究として,永慶寺の禅堂・斎堂の復元をテーマとしたものです。まずは近世の木割書を解読,そして手書きによる図面の作成およびCADによる復元画像の制作へと進み,最終的にはVPXⅡを使用して復元画をアニメーション化したものです。
平成5年4月,能開大に入学した国費留学生(第1期生)が3月25日卒業します。そこで卒業にあたり,留学生が日本での思い出を作文にまとめましたので紹介(原文どおり)します。
産業機械工学科 チャダラット・ノプノブ(タイ)
私達は4年半日本に来たことになって,労働省奨学金のおかげで,さまざまな経験をさせていただいた。最初に日本語を全く分からなくて,日本に来る前にわずかな日本語の授業を勉強したため,日本に来ることによって,とても不安な気持ちだった。だが,初めて外国での暮らしや新たな環境など好奇心だらけの私達が日本に来ることに決断した。
職業能力開発大学校は職業訓練指導員の養成と,職業能力開発に関する調査・研究を目的とする日本で唯一の教育研究機関と思われる。さらに,開発途上国に対する技術援助や,技術者の職業能力開発・職業訓練指導員の資質の向上等,教育教材の開発を含めた幅広い活動を行っている。高等学校卒業者または学力をもっと認められた者を対象として,職業訓練指導員に必要な知識・技術・技能を与えられる。科学知識を応用して,新しい製品を開発したり設計・製造することが工学(エンジニアリング)の基本の目的だ。そのためエンジニアの仕事はあらゆる面で人間生活の向上に深く結び付いている。先端技術を開発するだけでなく,より経済的で美しく安全で自然にやさしい製品を作り出す必要もあり,優秀なエンジニアは,斬新な着想を生む豊かな想像力と,ひらめきを具体化する実務能力を合わせ持っている必要がある。
ひとくちに工学といっても,機械系,電気・情報系,建築・デザイン系,福祉系などさまざまな専門分野があり,大学校での専攻も,これら分野ごとに分かれていることが多い。また,工学専攻を志望する学生は1,2年生の間にまず数学,化学,物理,英語,人文科学,社会科学の一般教育を復習しながら,コンピュータプログラミング,熱力学,電子回路,安全工学,指導学科の基礎を学習する。3年生になると各学科の専門科目を中心に,いろいろな実験を試す。特に工場実習という科目は実際の工場の中で過ごして,今まで総合的な知識を応用して,現在の技術を学び,自分の技能を開発させた。4年生に進級してから,興味の持ち各自はそれぞれの研究室に入る。こうした科目を勉強しながら,多勢の人を組織して協力して働く能力や,コンピュータを使う能力,新しいシステムを創造できる発想の豊かさ,数学などの能力を身に着ける必要がある。その上,4年生のための実務実習は指導員になれるかどうかこの実習より人に教えるという実習である。実習を行って,特に若い年齢層を対象に行っていることもあり専門的な知識,技術と同等に生活指導の面に関しての指導も大切であるという事を知り,指導員という仕事の奥深さ,大変さを感じた。しかし,同時にそういったことをできる楽しさ,またやりがいのある職場でもあるということを感じ,それから指導員をめざそうとしている私にとっては大変良い経験になり,とても役立ち,収穫の多い実習であり,いろいろな意味で私自身も成長することができたと思う。この経験は必ず将来に活かすことができると思う。卒業までに最も重要なのは科学的な法則に従って仮説を立て,その仮説を実験によって証明するという科学的な態度だ。こうした力をつけるためには,いくつかの基本的な原理をさまざまな角度から検討して,原理やそこから導き出された仮説を,実験によって試してみることが重要になる。このため,理学を専攻した場合には,実験や調査が勉強の中心になる。卒業生は4年の終わりに卒業論文を提出したうえで筆記と口頭で行なわれる卒業試験に合格するのに努力が必要である。
4年半間に,苦労したり幸せになったり,私達に対していろいろなことをいつまでも懐かしく思い出されるものである。自分の国を日本のように開発させたいという目的を達するつもりである。
最後になりましたが,大変お世話になっております。職業能力開発大学校の先生方,職員の方々に厚く御礼申し上げます。
情報工学科 アグス・イマン・サントソ(インドネシア)
今年,平成9年度,私は日本にもう4年間暮らして来た。この4年間の経験をこの文書にまとめるのがとても短すぎるだと思うのだが,なかなかまともな日本語を使って表現するのがやはりまだまだにがてだ。確かに,山ほどの事を書くつもりだが,なかなか整理するのも大変だから,少しだけ思い浮かんだ事を書こうと思っている。先ず,この話は4年半前の事から始めたいと思うのだ。当時は全く日本または留学するという言葉さえ頭に入っていなかった。特に,私はその当時の2年前に高校を卒業した者ですから,全く勉強という言葉も心に存在しなかった。ところが,ある時,親戚のお兄さんが労働省の奨学金があると聞いて,私まで話が伝わって来た。やってみようという決心が出たのだが,とっても難しいかと思って,半分あきらめの気持で第1回の選考試験を受けに行った。多分,当時,私は運が良かったかもしれないのだが,第1回の選考試験に合格して,第2回の選考試験,これは,当時,職業能力開発大学校が実施した試験だった,これも合格した。但し,半分あきらめの気持がまだ消えていなかった。
1992年10月1日に成田空港に到着した。日本を全く知らない私は当時,別の世界に遊びに行くような気分だった。特に,英語がにがてな日本人を見ると,何故先進国というのに英語が解らないとばかり言っているのだ,不思議な思いだった。しかも,この不思議な思いは今でもまだ残っているのだ。
当時,職業能力開発大学校についてから約6ヵ月日本語と日本の事情を習って来た。先生方がとっても良かった。この期間では私にとって,他の4年間暮らしに比べて一番幸いな時期だった。しかし,この時期にもホームシックが一番重かった。先輩も居ない,後輩はもちろん,友達,話相手,全部,居なかった。第一期生がとっても辛かったが,今までも,いつまでもこの辛さが消えていないようだ。
大学に入って情報工学科を受けている。知らない世界に入り込んでいるような気分で入学し,授業を受けている。それでも,様々な友達ができた。知らん振りな日本人から,とっても優しくてお母さんらしい日本人もいた。授業を受けても,当然,日本語がまだ不十分のため,解らない授業ばかりだった。英語の授業が一番楽しみだったが,ここは日本だからと思い込んでしまって,成績は良くなかった。私の人生の中で,何故英語があまり解らない日本人に負けたのだ。不思議な思いと最悪な授業だった。
2年生,3年生になると当然前よりもっと色々な経験が沢山あった。例えば,私も今まで全く理由が解らないのは,何故日本人が宗教の事を気にしないと言っているのにクリスマスを祝ったり,結婚式を教会で行ったりしているのだろうか。しかし,忘年会,新年歓迎会などが日本では絶対に不可欠な行事である。と言うような事々から益々この不思議が消えていないようだ。
しかし,現在までは,私にとって日本に暮らしてとっても良かった。特に職業能力開発大学校,の先生方が様々な指導,知識を項いて,とっても良い勉強になった。ある行事で近辺の人たちとの触れ合いが出来た時などは凄く感動した事があった。
最後に,この4年間半はとっても色々な事を勉強をさせて項いて,心の底から全ての関わっている方々に深く感謝を申し上げる。最初にこの留学生の制度の目的で決定されたように,もっとも各自の国の良い質を持つ人材を育成するため,日本の唯一の職業能力開発大学校に留学をさせて,そして,この学校より様々な出来事,怒り,苦痛,思い出,が出来て,私は自分の人生を磨いていくと共に出来る限りこの留学制度の目的を達成したいと考える。しかし,私に残った不思議な思いが全く消えていないようだ。
「技能と技術」(5/1996)に紹介したように,国内向けのME技術学習パッケージ教材(以下「ME教材」という)は,平成5年度に6シリーズが完成しました。ME教材は,実習書(テキスト)と実習機器(トレーナ)に人間の五感を有効に活用する映像補助教材(バーコード対応のレーザーディスク,またはパソコンCAIソフト)を加えた3つの種類からなる教材で,知識と技能の習得を同時に容易に行うことができるように構成されています。
これらの点をふまえて,平成6年度より日本で研修を受ける外国人研修員や海外の職業訓練関係センタープロジェクト等に派遣される専門家の技術移転用の教材として,「PC制御」「リレーシーケンス制御」「無接点シーケンス制御」「電子制御」「ディジタル制御」「マイコン制御」*の開発を行いました。
海外向けME技術学習パッケージ教材は,「読んで考え,触れて理解を深め,疑問点,関連情報を目で見て確認」することを目的としたME教材の方針に基づいて,学習内容の理解を深める工夫がなされています。一般に外国人研修員の受け入れにあたっては,適切な教科書や実習用機器が思うように入手できず,市販されている教科書の一部分を引用したり,機器取扱説明書の英語訳を苦労して入手している場合が多いことが言われています。また海外へ派遣される専門家は,カウンターパートへの技術移転は限られた期間内に成果を出すことが求められており,教材の選択やマニュアルの作成は重要なウエイトを占めます。これらの点を補うために開発された海外向けME技術学習パッケージ教材の内容を示します。なお,実習装置(トレーナ)は,国内外兼用で使用できます。
*現在,実習書(テキスト),映像補助教材(レーザーディスク)は製作中です。