• 山形県立産業技術短期大学校 情報管理システム科  石川 公洋

1.はじめに

最近のパソコン性能の飛躍的な向上と,それらを結ぶネットワーク機器の普及には目をみはるものがある。これらのパソコンやモデムとネットワーク関連ソフトを組み合わせると,企業にとって重要な販売情報管理システムを経済的なコストとワークロードで作成することができる。企業モデルとして多数の支店をもつチェーンストア等の販売情報について,オンライン一括管理を考えシステムの構築を行った。

本支店間のデータ送受信は電話回線経由で,主に支店の売上情報と本店からの新商品登録情報をやりとりしている。本稿では,企業データを遠隔地の支店へオンラインで送ることは難しいことではなく,それもコストとワークロードを最小限におさえて実現できるというところに力点をおいた。したがって工夫をすれば,パソコンとモデムがあれば手ごろなソフト,例えば雑誌の付録についてくるフリーソフト等を利用して,データ伝送システムを手軽に作成することができ,中小企業や大企業の各部門で便利なツールとして仕事に役立てることができる。

2.システム概要と構成

図1に示すように本支店間は電話回線で接続されており,定められた時刻になると全支店から商品の“売上データ”が本店に送られてくる。

図1
図1

本店ではこの売上データを支店別,商品別に集計してデータベースを作成し,タイムリーに販売情報のグラフ表示を行い,企業戦略情報として活用することができる。

例えば,どの支店ではどの商品が“売れ筋”なのか,といった情報は図2に示すように簡単にグラフで見ることができる。また新商品の登録や登録済み商品の単価等の訂正は本店から支店へ送信して,商品データベースを更新する。

図2
図2

次に電話回線経由で本支店間のデータの送受信を行うときのフローを図3に示す。

図3
図3

このネットワーク機能を実現するには,パソコンを除けばモデムといくつかの通信ソフトが必要になる。また商品データベースを作成し,これを更新していく機能をもったデータベース管理ソフトも欠かすことができない。

当然のことながら,売上データは機密性を考えて伝送時に“暗号化”ができるソフト,回線料金を安くするための“データ圧縮”用ソフト,伝送時の“回線エラー訂正機能”をもつソフトおよびデータ送受信用ソフトがなければ,大事な企業データは送ることができない。

ここでは通信ソフトとして,便利で手軽なフリーソフトを採用することにした。

3.システムの特徴

このシステムの特徴は,まず第1にオンラインで全支店からの販売情報を本店で一括自動受信して商品データベースを即時更新する。したがって,経営戦略上必要なときに,いつでも最新の販売情報をグラフ等で見ることができる。

第2に販売管理のプログラムがデータベース設計とメニュー画面が多いことから,簡単でプログラミング効率がよく,比較的安価なデータベース言語“dBXL”を使用してみることにした。

これにより,システム開発におけるワークロードと開発期間の大幅な短縮を図ることができた。

さらに,カラー画面も簡単に作成でき,

・マルチウィンドウ機能

・グラフ作成機能

・ヘルプメニュー

等の強力な機能を使うことができた。

第3の特徴として,データ受信の自動化を考えた。これが一番苦労したのであるが,本店側でデータ受信用の専用パソコンがあればいいのだが,普通は事務用のパソコンをデータ受信時に切り替えて使っている。したがって,担当者がワープロ作業中に送信の知らせがあると,ワープロ作業を中断して,受信オペレーションを行わなければならない。

担当者の作業の効率化を考えると,ワープロ作業中にデータを受信すると,“Beep音”を鳴らして担当者に知らせ自動受信ができると便利である。

本稿では簡単な“割込み処理ルーチン”をC言語で作成して,送信側がいつでも受信側の状態に関係なくデータを送れるようにした。また,受信側も自動受信により,担当者が作業中でも意識せずにデータを受け取ることができる。

最後に,このシステムではパスワードによる機密保護により,売上情報等の重要な企業データが関係者以外に漏れることを防止した。

4.本支店データ送受信

4.1 支店側:送信オペレーション

全支店の売上データを本店に定刻に送信し,タイムリーな販売管理を行う。通信ソフトは,現在,WTERM,PKZIP,ISH,QUICK-VANといった優れたフリーソフトが一般に普及しているので,これらを組み合わせて作成した。

また,ユーザに合わせたシステムの修正が柔軟に行える。図3にデータ送受信フローを示したが,これらの通信ソフトを使用するにあたっては,本支店間の公衆回線モデムの接続を“WTERM”ソフトで行った後で使用しなければならない。

■売上データの送信手順

  • ・タイムリーな送信ファイルの作成
  • ・“PKZIPソフト”によるファイル圧縮と暗号化
  • ・“ISH.COMソフト”による変換
    (伝送中のエラー訂正コード付加)
  • ・“QV(QuickVAN)送受信ソフト”で送信

支店側でこの手順でフリーソフトを連続バッチ処理すると,売上データが公衆回線経由で本店に転送される。このとき,データ伝送中に通信障害が起こっても,最初から送り直しをせず,中断箇所から再送が可能な点が“QVソフト”を採用した理由の1つである。

4.2 本店側:受信オペレーション

各支店からの売上データを本店で自動受信して省力化とタイムリーな販売管理を行う。なお,データ受信検出はRS-232Cのポートをタイマ割込みで監視するルーチンをC言語を用いて作成した。売上データの受信手順は送信手順の逆を行えばよいから,次のようになる。

■売上データの受信手順

  • ・データ受信検出のタイマ割込処理
  • ・“QVソフト”によるデータの受信
  • ・“ISH.COMソフト”による変換
    (伝送中のエラー訂正)
  • ・“PKUNZIPソフト”による圧縮解凍と暗号解読

上記フリーソフトを連続バッチ処理すると,本店側で売上データの受信処理の自動化ができる。

4.3 商品データベースの自動更新

本店で支店からの売上データを受信すると,即時に商品データベースが更新され,いつでも全支店の販売状況を参照することができる。よって,企業戦略の有力なデータを提供できるわけである。

4.4 通信ソフト利用のメリット

電話回線で接続されたパソコン間のデータ伝送にフリーの通信ソフトを使用したが,そのメリットとして次のものがある。

  • ・データ圧縮による通信コスト削減,伝送スピードの向上
  • ・パスワードによる企業機密保護
    “ISH変換”による伝送エラー訂正(データ損失が制限内であれば復元可能)
  • ・伝送中の通信障害時に中断箇所から再送
  • ・ソフト費用の削減

5.おわりに

本稿の目的の1つは,データベース言語“dBXL”を使用してみて,その生産性を調べることであった。まず,売上データの入力画面の作成と入力データの訂正は,各種のコマンド機能を使って容易に行うことができた。特にカラー表示のメニュー画面は簡単で,マルチウィンドウやヘルプ機能などの高度な機能も自由に使用できた。

レコード検索もC言語によるコーディングに比べ簡単であり,“dBXL”の便利さを実感することができた。もし,他の言語,C言語等を用いてプログラミングした場合を考えると,デバッグに要する時間も考慮すると数倍の生産性があがると思う。

次に,第2の目的である売上データ伝送の効率化と自動化については,ほぼ満足する結果を得た。通信ソフトにフリーソフトを使用してみたが,結果は上々であった。

これらのフリーソフトを組み合わせると,相当高度な機能をもつシステムが実現でき,企業のネットワーク分野で十分実用に耐えられるという感じをもった次第である。

また,オペレーションの自動化という観点からタイマ割込みルーチンを作成し,ワープロ作業中でもデータ受信が検出できるように試みたが,プログラム作成およびテストに多大の苦労をさせられた。

テストには2台のNECの9801をモデム経由で電話回線に接続して行った。

ワープロ作業としてVZエディタ,一太郎を実行中にデータを受信すると,タイマ割込みにより,RS-232Cのポートを監視するルーチンに制御がわたり,ここで受信を検出して“Beep音”を鳴らす各種のテストを行った。

ただ,残念だったのはワープロ作業で一太郎を実行中にデータを受信すると,タイマ割込みは起こるが割込みルーチン内で受信検出ができず,一太郎終了時点まで待って初めて受信検出ができたことである。VZエディタ実行中のデータ受信にはなんら問題はなかった。

そこで考えられる可能性として,一太郎は割込みルーチン内部で使用するレジスタ,例えば,RS-232Cポート監視時に使うレジスタ等を壊していると推定することができる。

今後の課題として,この問題を解決し,“Beep音”通報による作業の中断がない完全自動化システムを実現したいと考えている。これにはまずOS/2のマルチタスク機能を利用して,事務作業と受信処理の同時並行処理ができるようにしたい。

〈参考文献〉

  1. 1) dBXL/Quicksilver Language Ref., USING dBxL,サザンパシフィック(株).
  2. 2) 益岡和美:dBXLによる実用プログラムの作り方,山海堂.
  3. 3) 服部昌博:C言語とデータ通信,工学図書.
  4. 4) 横田秀次郎:実用RS-232C通信プログラム作成法,CQ出版.
  5. 5) BORLAND C++ Library Ref,User's Guide,ボーランド(株).
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