• 高度ポリテクセンター(高度職業能力開発促進センター)槌谷 雅裕

1.はじめに

最近におけるパーソナルコンピュータやワークステーションの多くのOS (Operating System) およびアプリケーションが採用しているGUI(Graphical User Interface)・ネットワーク機能等を特徴とするものは,従来の職業能力開発施設におけるコンピュータによる教育訓練システムでは十分な教育訓練効果が望めなくなってきている。

以前からコンピュータを利用して教育支援を行うCAI(Computer Assisted Instruction)システムが複数メーカから提供されており,最近ではCMI(Computer Managed Instruction),CBE(Computer Based Education)等の統合教育支援システムが登場してきている。しかし,これらシステムの構築はコスト高であることと同時に,実際にセミナー等で利用する講師の立場からみると,不要ではないかと思われる機能までが組み込まれており,これらを使いこなすのに苦労するだけで十分活用されているとは言い難い。またCAIシステム全体がブラックボックス化されており,拡張性・柔軟性に欠けたシステム構成となっている場合が多い。

またコンピュータ利用技術分野におけるオープンシステム化,ダウンサイジング化が進む現在の動向から判断すると,雇用促進事業団の職業能力開発施設においてもこれらに対応可能なコンピュータによる教育訓練システムの構築および関連技術に関する能力開発セミナーのコース開発が必要と考える。

雇用促進事業団における職業能力開発施設の使命として,技能・技術の習得を目的とした能力開発セミナーの受講者に対して限られた時間内に効果的な教育訓練を提供すること,および教育訓練システム等の構築や教材開発を含めた活用技術等に関する技術情報の提供も重要課題であると考える。

これらの環境下において,今後のコンピュータを利用した能力開発セミナーの効率的な実施を可能にし,かつ,限られたセミナー時間内で最大限の教育訓練効果を得ることができるように高度ポリテクセンターにおいて構築した「情報技術教育システム」の概要およびその活用方法について報告する。

2.情報技術教育システムの概要

高度ポリテクセンターにおいて全系で共有する共通機器としての位置づけのもとに,パーソナルコンピュータ版およびワークステーション版の情報技術教育システムを構築した背景と,そのシステム概要は以下のとおりである。

2.1 従来システムの問題点

今般構築するシステムが,ターミナル型ユーザインタフェースを中心とする時代と同じシステムでは,ウィンドウシステム型ユーザインタフェース(GUI)を多用するOSやアプリケーションを使用したセミナーでは十分な訓練効果が望めない。これらの解決策として,大画面液晶プロジェクタ等の機器を導入して講師用マシンの画面情報を提示したり,CAIシステム導入により改善を試みたりしたが,費用がかかるわりに期待した訓練効果が得られない点があった。また,ウィンドウシステム型ユーザインタフェースの利用価値を高めるために必然的に巨大化した大型ディスプレイ装置のために,OHPやホワイトボードでの情報提示が見にくくなり,受講者側から不満の声が聞かれ始めた。

次に,能力開発セミナーの準備作業という観点からみると,セミナー内容のレベルアップに伴う環境設定等の準備作業の煩雑化から,ネットワーク機能を標準装備したUNIXワークステーションと比較すると,パーソナルコンピュータを使用した場合ではその準備作業に多大な時間を要する場合がある。

これらの問題点は,コンピュータを利用した能力開発セミナー等を実施した経験を有する者の多くが感じていることであり,改善策を模索している方も少なくないと考える。

2.2 情報技術教育システムの基本コンセプト

2.1に示した従来システムの問題点を解決するためのシステムとして,以下に示すような基本コンセプトのもとに情報技術教育システムを構築した。

  1. ① 従来からあるCAIシステムの長所と思われる必要機能部分だけをピックアップし,低コストで実現可能にすると同時に,拡張性,柔軟性に優れたシステム構成とする。
  2. ② GUIを多用したOSやアプリケーションを用いた場合の情報提示を効果的に行うために,講師用マシンのディスプレイ表示内容をそのままの形で受講者用に提示可能とするようなモニタ機能を実現する。
  3. ③ ウインドウシステム型ユーザインタフェースの長所を生かすために必要となる大型ディスプレイ装置を使用することにより,講習の補助手段であるOHPやホワイトボードを用いた情報提示機能が低下するのを補うために,講師用マシンの画面情報提示用のモニタをOHPやホワイトボードの代替用としても活用できる機能を実現する。
  4. ④ パーソナルコンピュータ版のシステムにおいては,過密化する能力開発セミナーの環境設定等の準備作業や,後始末およびセミナー実施中における演習問題の解答例等の資料配布を効率的に行うことを支援するネットワーク機能を付加する。またネットワークサーバの有効活用という点から,その教室がセミナー等で使用中であっても,ネットワークを介して他室のマシンからネットワークサーバにアクセスして,次週等に実施予定のセミナーの準備作業等が可能であること。
  5. ⑤ ビデオ・CD-ROM教材等のマルチメディア情報を利用した自作教材の作成および活用を支援する機能を有すること。
  6. ⑥ 講師の音声およびビデオ教材等の音声情報等が受講者側に鮮明に届くような機能を有すること。

2.3 情報技術教育システムの基本構成

2.2に示した基本コンセプトのもとに構築したパーソナルコンピュータ版およびワークステーション版の情報技術教育システム構成概要を図1図2に示す。本システムは,基本的に以下に示す5つの要素により構成されており,以下その概要を示す。

図1
図1
図2
図2
  1. ① 受講者および講師用マシン
  2. ② セミナー支援用ネットワークサーバマシンおよびネットワーク環境
  3. ③ セミナー支援用ディスプレイシステム
  4. ④ セミナー用ソフトウェア
  5. ⑤ 備品関連

① 受講者および講師用マシン

受講者用マシンおよび講師用マシンのハードウェア構成は基本的に同一環境にしてあり,共通機器としての位置づけから多種多様な能力開発セミナーでの活用を可能にするための十分なハードディスク容量(2ギガバイト程度)と,GUIを駆使したOSやアプリケーションに対応可能なグラフィック表示機能および基本的なマルチメディア対応機能やネットワーク接続機能を有する。

② セミナー支援用ネットワークサーバマシンおよびネットワーク環境

過密化する傾向にある能力開発セミナーの準備作業等を効率的に実施するためのネットワークサーバマシンと,講師用,受講者用各マシンとを接続するネットワーク環境(ネットワーク接続された共有プリンタを含む)を有する。

③ セミナー支援用ディスプレイシステム

講師用マシンの画面情報の提示や従来OHP・ホワイトボードで提示していた情報の提示およびビデオ教材等の提示を可能にすると同時に,講師の音声やビデオ教材等における音声情報を鮮明に伝達する機能も有する。

④ セミナー用ソフトウェア

各種技術分野の能力開発セミナーの実施を可能とする各種OSやアプリケーション等。

⑤ 備品関連

各マシン設置用のテーブルや椅子およびマニュアル等の備品を管理するためのキャビネット等。

3.情報技術教育システムの特徴とその活用

このようにコンピュータによる教育訓練用システムとして優れた機能をもつ情報技術教育システムの特徴とその活用方法を以下に示す。

  1. ① セミナー支援用ディスプレイシステムを効果的に利用することにより,ウィンドウシステム型ユーザインタフェースを多用するセミナーにおけるオペレーションおよび詳細技術説明において,受講者側の理解度が格段に高まるとともに,講師側の説明時における労力がかなり軽減できる。
  2. ② ネットワーク機能を活用することにより,能力開発セミナーの準備作業等を効率的に行うことが可能となった。具体的には,シェルプロシジャやバッチファイルによる実習環境や実習用ファイルのネットワークを介しての各マシンへの自動配布等,および教室がセミナーで使用中の場合におけるネットワークサーバへアクセスしてのセミナー準備作業等が可能となる。
  3. ③ パーソナルコンピュータ上におけるウィンドウズ環境を活用することにより,プレゼンテーションソフト(PowerPoint等)を利用した受講者にとってわかりやすいセミナー展開や,セミナー用テキストのウィンドウズ画面への埋め込み(ヘルプコンパイラにより作成したヘルプ形式のテキスト)による新たなセミナー実施形態への取り組みが可能となった。また,受講者がウィンドウズ環境の利用できるパーソナルコンピュータを所有する場合は,セミナーテキストインストール用フロッピーディスクを持ち帰り,各自のマシンにインストールすることによりセミナー内容の復習および実習環境の活用が可能になる等のメリットもある。
  4. ④ セミナー支援用ディスプレイシステムは市販の機器により構成されているため,従来のCAIシステムに比べると安価であると同時に,拡張性,柔軟性に優れており,受講者用マシンの増設や周辺機器等の増設が容易である。
  5. ⑤ 受講者用マシンおよび講師用マシンには基本的なマルチメディア対応機能を準備してあるので,オーサリングソフト等によるCD-ROM教材等の自作教材の作成およびその活用が可能である。

4.おわりに

今回構築したパーソナルコンピュータ版およびワークステーション版の情報技術教育システムは,雇用促進事業団の職業能力開発施設におけるコンピュータを利用した能力開発セミナーに広く活用可能な共通機器としての位置づけのもとに,できるだけ安いコストで能力開発セミナーの準備から実施,後始末までを効果的に支援する機能を最大限盛り込んでみた。

実際に能力開発セミナーに活用したところ受講者からのアンケート結果では好評を得ており,講師の立場からもセミナー支援機能の効果は十分満足できるものであった。

現在のセミナー支援機能の多くはハードウェアの機能に依存している部分が主体であるが,本システムの特徴としてマルチメディア機能を活用した自作教材開発等のソフトウェア部分の充実により,さらに付加価値を得ることが可能であると考えられることから,今後は各種能力開発セミナーへの活用を通して自作教材を含むソフトウェア部分の充実に取り組む必要がある。幸いなことに従来のコンピュータにおけるハードウェアおよびソフトウェア環境では実現不可能であったセミナー支援機能が,現在は比較的容易に実現できるようになった。今後においても新たなハードウェア環境およびソフトウェア環境を取り込むことにより,より優れた情報技術教育システムとなるように改良を加えていきたい。

ページのトップに戻る