電子系CAE/CAD/CAM分野の技術は,コンピュータの発達と歩調を合わせて進歩し,エレクトロニクス製品の高度化,小型化,高密度化,高速化に対応するための自動化技術として,今やなくてはならないものになっている。
当短大でも,この自動化のための先端技術に対応するため,電子系CAE/CAD/CAMシステムを導入し教育訓練のために運用している。
この電子系CAE/CAD/CAMシステムを十分に活用するために,単に電子回路設計のための道具としてだけでなく,電子技術科を支える核として位置づけ,トータル的な電子系CAE/CAD/CAM教育システムとしての構築を行った。
この電子系CAE/CAD/CAMシステムの位置づけや導入の狙いとそのシステムの構成について述べ,開発した教材について紹介し,当短大電子技術科における運用と教育訓練について報告する。
当校電子技術科は,具体的に図1に示すように,電気・電子工学,情報工学,制御工学の3本の柱を体系的に学習することを基本とし,その上に電子応用,制御および情報応用の専門科目を設定し,目まぐるしく変化する情報化社会に対応すべく創造的思考ができる実践技術者の育成を教育目標にしている。
基本となる電気・電子工学,情報工学,制御工学の3本の柱は,独立にあるのではなく,常に相互間の連携を保つ構成になっている。そして,この連携した3本の柱を支える核として位置づけているのが点線の円で示される電子系CAE/CAD/CAMシステムである。
例えば,コンピュータの原理やBASIC・C言語等の情報処理教育が単にそれだけで終わるのではなく,電子系CAE/CAD/CAMシステムを使用して,ハードの設計,製作や制御プログラムの開発が具体的に習得できるように関連づけした教育を行っている。
このように,電子系CAE/CAD/CAMシステムを単なるプリント基板を作る道具として使用するだけでなく,シミュレーション等を活用した電気・電子基礎実験や,マイコン開発,GPIBによる自動計測およびコンピュータ制御等にも対応できるように,3 本の柱を支える核として位置づけて配置する。いいかえれば,「回路設計からシミュレーション,プリント基板の設計・製作を行い,それを実験・評価(マイコン開発,ロボット制御,自動計測等)する」までの一貫した教育ができるように,電子系CAE/CAD/CAMシステムを位置づけている。
電子技術科を支える核として電子系CAE/CAD/CAMシステムを導入する場合,一番大きな問題としてプラットホームを何にするかという問題,いわゆるパソコンかワークステーションかという二者択一の問題がある。機能面や今後の発展性等を考えると,以下の理由により電子系CAE/CAD(電子回路設計・シミュレーションシステム)としてはワークステーション,電子系CAM(製作,実験・評価するシステムいわゆるプリント基板製作,マイコン開発システムなど)としてはパソコンでの展開が妥当であると考えた。
このシステムはワークステーションとパソコンおよび各機能をネットワークで接続したトータル的な電子系CAE/CAD/CAM教育システムであり,サーバ/クライアントシステムなど分散型の機器構成である。
電子系CAE/CAD/CAMシステムの機能とカリキュラムとの関係を図3に示す。
この図は体系化された電子技術科のカリキュラムが,この電子系CAE/CAD/CAMシステムと,どのように密接に関係しているかについて示している。
この図は「2.で述べた電気・電子工学,情報工学,制御工学の3本の柱で学習したことを基礎にして,実際に回路の設計を行ってみる。それをCAD上でシミュレーションして回路の検証を行う。誤っていたら,フィードバックする。回路が完成したら,CAD上でプリント基板設計を行う。設計が終了したら実際にプリント基板加工またはエッチングにより基板を製作する。基板が完成したら,部品を実装し,シンクロスコープでチェックしたり,制御プログラムにより,動作を確認して評価する」という流れを表している。
電子系CAE/CAD/CAMシステムを使用して教育訓練を行う場合,システムを動かすための操作の教育をどうするかという問題がある。
膨大な機能を持つ電子系CAE/CAD/CAMシステムは,その操作を覚えるだけでも大変な作業である。この操作にあまり時間を費やさないで,回路設計本来の目的が達成できるようにする必要がある。また,ワークステーションを使用するとなれば,そのOSなどの関連知識もある程度必要となる。
企業向けや短大2年間の教育の限られた時間で,これらをマスターできるようにするためには充実した教材が不可欠である。
このような問題に対応するため,『LEDディスプレイ制御回路とモータ制御回路』を取り上げ,基本的な2層プリント基板ができるまでの一連の流れ(回路設計からシミュレーション,プリント基板設計・製作まで)を操作を通して学習できる教材の開発を行った。
この教材はパソコンによりモータを制御したり, セブンセグメントの表示を行うためのもので,アナログとディジタルの混合回路である。
この教材の学習の流れを簡単に,以下に示す。
この教材の最大の特徴は,先の「2.電子技術科における電子系CAE/CAD/CAMシステムの位置づけ」で述べたように,「回路設計からシミュレーション,プリント基板設計・製作,実験・評価」までの一貫した教育が具体化できることである。
以上,当短大電子技術科で取り組んでいるトータル的な電子系CAE/CAD/CAM教育システムについて述べた。
今後,これらの教材やシステム運用について,短大の学生や.企業向けの少ない教育時間のなかで,システムの理解がえられるように,さらに改良を加え,教育訓練の充実を図りたいと考えている。
今回,開発した『LEDディスプレイとモータ制御回路』のEDS回路サンプルデータ,PWS基板図サンプルデータについて,メディア(DATテープ)での提供を行っております。ご希望の方は,当短大担当までご連絡ください。