• ポリテクカレッジ北九州(北九州職業能力開発短期大学校)産業デザイン科  小川 和彦

1.はじめに

18歳人口の減少そして在職者訓練の問題と,20世紀の世紀末には,職業能力短期大学校にとって大きな問題がいくつかあります。その中でも,在職者に対する高度な職業能力開発という課題は私たちにとって大きな問題です。単純に高価で高度な機器を使うだけではなく,それらをどう使うかが今後求められていくと思います。そしてCAD教育も考えなければならない点が多くあると考えられます。ここでポリテクカレッジ北九州産業デザイン科の現状をふまえ私の意見を述べたいと思います。

2.ポリテクカレッジ北九州(産業デザイン科)の環境

ポリテクカレッジ北九州(産業デザイン科)の,ハードウェアの設備は,図1に示されるように,パーソナルコンピュータ(Apple Macintosh)学生1人1台,そして各教官1人1台の割合で約30台が整備され,休み時間や放課後に学生が自由に使える環境を整えています。このことによって2年という短い時間の中で,CADを含めコンピュータに十分にふれあう時間をとることが可能となってきています。またCADソフトウェアは,2次元CADはMiniCAD(Diehl Graphsoft inc),3次元CADはform-Z(autodesys inc)を主体に教育・訓練を行い,導入の際には,感覚的にわかりやすい3次元CADから入り,その後2次元CADに移るという方法をとっています。これは逆のように思えますが,現在のマン・マシン・インターフェースの優れた3次元CADの場合,形の入力と表現が簡単にでき,学生にとって難しいという精神的負担がなく楽しく学習できるからです。

図1
図1
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3.短大におけるCAD教育について

ほとんどの学生が,短大に入るまで図面の読み書きをしたことがないため,入学時には図面が読めないのが現状です。このためCAD教育を考える前に,図面の読み書きの教育が重要であると考えられます。また表1に示されるように,本短大の産業デザイン科では,CAD教育の視点から見ると建築科に比べ時間的に余裕がないため,独立したCADの授業がカリキュラムの中に組み込まれていません。そのため,コンピュータ基礎の授業の中で少しCADにふれるだけで,後は各学生の自学自習に頼っているのが現状です。しかし,コンピュータや製図の基礎がしっかりしている学生は,卒業研究(制作)の段階では自由にCADを使いこなし,図3のような図面の作成を行っています。この図面は,CADを始めて3週間で制作したものです。このような図面が短時間で作成できたのは,その前に表1のコンピュータ関連や製図の授業を終え十分に基礎的な知識が蓄えられていたためだと考えられます。

表1
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図3
図3
表1
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4.建築/デザイン系でのCAD教育の問題点

あくまでもCADは,鉛筆やペンなどのツールの延長であると考えられます。そこでまず,図面の基礎ができていることが大切です。ところが残念なことに,今までの多くのCAD導入例をみると,オペレーティング中心の考え方となってきています。このためか,手で図面を書くことをあまり行わずにCADを使うと,図面の清書ができても,ゼロから図面が作成できない場合や,図面が作成できても,CADで書きにくい図面を書くのをさけたりする傾向があるように見受けられます。表1に示されるように産業デザイン科の学生は,建築科の学生に比べ一般的に製図に対する知識が少ないのでこの傾向が顕著に出ていると思います。

表1
表1

また逆にコンピュータの知識が乏しい状態でCADのオペレーティングを行うと,コンピュータがハングアップしたりハードディスクがクラッシュしたときの対処などができません。数年前に比べ,コンピュータ関連の授業においてハードウェアやプログラミングのウエートが少なくなってきています。このため最近は以前に比べこの傾向が顕著に出てきています。また実践技術者の養成という観点から見れば,コンピュータのメンテナンスをある程度できる技術者を育てたいものです。このようなものをふまえ理想的な形を考えると図4に示されるようにCAD教育はCADオペレーティング中心ではなく,基礎製図とコンピュータ基礎の上に成り立つべきだと思います。

図4
図4

5.CAD関連科目について

表1で示されるように,建築科・デザイン科ともにCADについての学科(専門科目)がありません。これはポリテクカレッジ北九州だけの問題ではなく,ほとんどの職業能力開発短期大学校でいえることです。またコンピュータ基礎の科目の中で,図形処理についてふれることもありますが,十分に学習する時間がないのが現状です。また,時間不足のうえに適当な教材がなく,CADをブラックボックスの状態で使用しています。CADソフトウェアの開発エンジニアの養成ではないので,ブラックボックスを透明にする必要はないのですが,せめて,少しでも中が透けて見える状態にしたいものです。そのためには,高価で高度なCADシステムのオペレーティングだけではなく,10年前に戻って,自作の内部の図形処理がわかりやすいCADを教材に取りあげるのもよいのかもしれません。

表1
表1

6.今後のCAD教育に望むこと

機械・電気の分野ではCADは,図面作成のツールだけではなく,構造解析や回路のシミュレーションとして使われたり,FAあるいはCIM等の一部となっていますが,建築・デザインの分野では,図面作成のツールの域を出ていないのが現状です。建築の分野では工場生産の住宅の比率が上がっています。このために単にCADだけではなくCAM側の知識も多少必要となってきます。またデザインの分野でもモデリングマシンで試作品を作るケースが多くなってきています。またCADデータを使って建築の構造シミュレーションを行うものや,CADデータから見積りまで出すソフトウェアも最近多く見ることができます。これからは図面を書くだけにCADを使うのではなく,それから作成したCADデータをどう使うのかを知っておく必要があると思います。そしてCADデータの使い方で,CADそのものが高価な鉛筆ではなく別の物になることを知っておく必要があると思います。このためにも幅広い基礎知識が必要と思われます。

7.おわりに

これからは,CADを図面の清書に使うよりも,CADデータを作成し,そのデータを生かし何を行うかが問題であると思います。このためには単なるCADのオペレーティングだけではなく,裾野の広い基礎教育が必要であると思います。

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