• ポリテクカレッジ福山(福山職業能力開発短期大学校)京牟禮 実

1.はじめに

関東大震災で地震国日本の建築構法として失格の烙印を押された構法がある。その構法が新たな建築技術を取り入れることにより耐震災性能を改善した建築構法として阪神大震災で今甦えろうとしている。

メーソンリーとは,組積の意味であり世界の7割の人々の住宅がレンガや石を組み積みしたこの構法であるといわれている。補強メーソンリーとは,ブロックやレンガ等の材料を鉄筋で補強した建築物である。この種の建物が,阪神地区には所在地を確認したもので171棟(512戸)近くあり,ほとんどが無傷に近い状態であった。

私は,産学官協同で組織された阪神大震災メーソンリー構造物被害調査連絡会の一員として,その種の建物の被害調査を実施している。本報は,その初動調査報告である。なお,阪神大震災の震度・被害状況等の資料は,日本建築学会・建築雑誌等に多数報告されているのでここでは割愛した。

2.日本のメーソンリーの歴史

日本のメーソンリー建築物の歴史は,明治時代の赤煉瓦街に代表されるように西洋からの新技術導入のシンボルとして取り入れられ,大正時代まで石やレンガを用いた華やかなメーソンリー建築物が建設されたことに始まる。しかし関東大震災でメーソンリー建築物は,壊滅的な被害を受けた。その原因は,西洋の建築技術をそのまま受け入れ日本の耐震技術が不足していたためである。これ以降日本では,メーソンリー建築は,研究者や行政に顧みられることがなかった。また,地震のたびに転倒するブロック塀により地震に弱い構法としてのイメージは,国民にも定着していくことになった。

補強メーソンリーであるブロック造は,戦後米国より都市の不燃化対策や耐震性を持ち合わせた安価な構法として導入された。その建築は,昭和30年代に全国的に普及した。しかし,不燃化・耐震性を持ち合わせた安価な構法であったにもかかわらず,施工技術の未熟さから多くの建物が雨漏りを起こし,その後建築物にあまり用いられないようになった。そして現在では,住宅の外構のブロック塀として見られるにすぎない。

3.鉄筋コンクリート組積構法(RM構法)

現在の日本の住宅は木造,鉄骨造,鉄筋コンクリート造で占められている。木造に使用する木材は,7割を輸入に依存している。軽量鉄骨造は,今回の地震ではさほど被害がなかったが耐風害・耐久性に問題がある(100年程度の耐久性と比較した場合)。鉄筋コンクリート造は,耐震災性を持っているが高価である。またコンクリート工事に使用する型枠材は,熱帯雨林産のラワン合板が主であり,数回用いては捨てられていることが地球環境問題の高まりから問題視されている。

これらの問題を解決可能にするため高度な建築技術を取り入れた新しい補強メーソンリーが,建設省建築研究所を中心とした研究により開発されている。この概要は,鉄筋コンクリート壁体の型枠合板の代わりにレンガやブロックを型枠材として用い,その空洞部に鉄筋を配筋した後に,コンクリートを打設し一体化するものである。これにより型枠合板を使用しないで,壁の外観の意匠性の優れた耐震災性のある建物の建築が可能となる。言い替えれば鉄筋コンクリートのよさとメーソンリーのよさを併せ持った建築構法であり各地で試行されている。

この新しい補強メーソンリー建築の躯体の大部分であるブロック,レンガ,コンクリートの原料は,石灰石や粘土である。これは国内資源を用い大量に供給可能な建築材料である。また,ブロックやレンガの壁は,単体ユニットの組み合わせでありコンピュータを利用した生産システムに適合している。そのため多様化した住宅ニーズに適合し,多品種少量生産が可能となる。また,その工事は,小型ユニットの組み合わせを繰り返す単純作業であり未熟練工技能者でも一貫して施工可能である。しかも高品質な住宅を安価に供給できる。写真1は,われわれが提案している構法のユニット組積状況を示す。壁の組積工事の終了後,充填用のコンクリートを打設し一体化する。しかし,このようにすばらしい構法だが,メーソンリー建築物は,震災に弱いというイメージが建てる側に根強くあり,わずかな数の建物が建設されているにすぎない。この構法の誤ったイメージが,今回の震災の実証結果により変わることを期待したい。

写真1
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4.被害調査

被害調査は,始めに阪神地区のメーソンリー造建築物の所在地を把握し,次に所在地の確認できた建物の被害実態を調査した。地震による被害度の区分は,表1に示すように,軽微から倒壊の5段階とした。

表1
表1

表2は,無補強メーソンリー建築一覧を示す。無補強メーソンリー造は,調査した地域のすべての建築がなんらかの被害があり,関東大震災で指摘されたように非常に脆く,耐震性の小さい構造であることが改めて実証された。写真2は,異人館街の旧トーマス邸(通称:風見鶏の館)である。壁にせん断クラックが鮮明に現れている。

表2
表2
写真2
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表3は,補強メーソンリー建築一覧を示す。補強メーソンリー建築は,開発されて約50年とメーソンリー造の中では歴史が浅いため,過去これだけの大地震を受けたことがない。したがって,今回の地震が初めて耐震性を実証することとなった。調査の結果は,約140棟(450戸)中,崩壊・倒壊した建築物はなく,約50cmの不同沈下により曲げクラックが発生したもの1棟,その他はまったく被害を受けていないことが判明した。写真3は,神戸新港第5基部にある港湾労働者休憩所の写真である。不同沈下により傾斜計で2度傾いているがクラック等の被害はない。その隣の鉄骨造平屋の建築物は,大破している。

表3
表3
写真3
写真3

表4は,鉄筋コンクリートメーソンリー建築一覧を示す。H形形枠ブロックを用いた鉄筋コンクリートメーソンリー建築は,開発されてから約20年しか経ていない非常に新しい構法であり建築戸数は少ない。しかし,地震地に20棟近く存在し周辺の建築物の多くは被害を受けたにもかかわらず,まったく被害は発生していなかった。写真4は,神戸市中央区の鉄筋コンクリートメーソンリー造の福祉センターである。周りの木造住宅が倒壊し被災者の避難所として使用されている。写真5は,神戸市灘区の延焼を受けた鉄筋コンクリートメーソンリー造の店舖付き住宅である。この建物は,震災と火災を受けており,今後材料・構造両面から詳細な調査を実施する予定としている。

表4
表4
写真4
写真4
写真5
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5.おわりに

今後の地球環境資源の有効利用を考えると100年から200年程度使用可能な住宅をストックする構法の普及が望まれる。これまで蓄積してきた建築技術と豊かな経済力がある今,手の届く価格で耐久性・耐火性・耐震性に優れた建築構法の普及に真剣に取り組む必要がある。日本の高度な建築技術を取り入れた新しい鉄筋コンクリートメーソンリー造(RM造)は,建設省建築研究所を中心とした研究により開発されてから6年たち全国的に普及する兆しも見え始めている。

当事業団は,耐震性が実証されたその構法の能開業務を広く展開することを切に望みたい。また,世界の地震地帯にありながら耐震災性の技術の乏しい国々にその技術移転をすることも日本の国際貢献の1つだと考える。

〈参考文献〉

  1. 1) 渡辺光良:新しい鉄筋コンクリート組積講座RM構法,技能と技術,第164号~168号.
  2. 2) 京牟禮実・渡辺光良:格子鉄筋を使用した小型PC構法の開発(その13情報化建築生産システムの検討),日本建築学会東海大会,pp.1069,1994.9
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