• 宮城県立塩釜高等技術専門校情報処理科  新妻 幹也

最近のコンピュータ事情をみると,あちらこちらで「マルチメディア」の文字を目にします。マルチメディアとはいったい何なのでしょう。職業能力開発の現場に携わる私たちにプラスとなるような要素はあるのでしょうか。今回はその辺について触れてみたいと思います。

1.マルチメディアの3要素

マルチメディアとは,一般に,①文字,②映像,③音声の3つの要素で構成されるメディアと説明されています。このどれか1つの要素でも欠ければそれはマルチメディアではないことになります。例えば新聞や雑誌では音声要素が,電話ではFAXを考慮に入れても,映像要素が欠けていますから,マルチメディアではないということになります。

では,テレビはどうでしょうか。文字も映像も音声もあり,マルチメディアのようにも思われますが,受け手側がそのそれぞれの要素を任意に選択して受け取ることはできません。つまり,テレビの画面の上半分はNHKニュースの文字情報を,下半分は民放のスポーツ番組をというような使い方はできないわけです。もしこのようなことが可能になればそれはマルチメディアと呼ばれるでしょう。

現在の電話は基本的には音声のやりとりだけですから,到底マルチメディアには含まれないのですが,これをマルチメディア化するとどうなるでしょうか。まず,顔も映るテレビ電話は当然で,さらには,必要な文字情報も相互に送れるようなシステムになるでしよう。

新聞はどうでしょう。いくら何でも今のような新聞の形態をとっていては,「声の出る新聞」のようなものはできそうもありません。

やはり,電話回線を使って新聞社のコンピュータにアクセスしてメニューから自分の見たい項目を選んで,テレビ画面に映し出すような方式になるでしょう。電話料金も含めて1ヵ月3000円ぐらいの定額制で実現してくれればいいのですが。これができればどんどん貯まっていく古新聞の処理も心配しなくてすみそうです。

2.職業能力開発分野におけるマルチメディアの活用

さて,このマルチメディアを私たちの職業能力開発分野に当てはめて考えると,どんな使い方ができるでしょうか。

まず,考えられるのが施設に登校せずに目的のコースを受講する在宅学習システムです。このシステムの第一のメリットは言うまでもなく「通学に要する時間がまったくない」ということです。これまでは,受講者が施設から遠いために受講をあきらめていたり,あるいは施設を作る際に受講者の多く集まる場所を考慮せざるを得なかったり,何かと都市中心になりがちでした。しかし,在宅学習システムが定着すれば,より多くの在職者の方々が新しい技術を身につけることが可能になることでしょう。

第二に「好きな時間に受講できる」ということです。施設のコンピュータさえ動いていれば,たとえ仕事が終わった夜にでも受講することができるわけです。

第三に「教える側(指導員)が供給する教材づくりに今まで以上に力を注げる」ということになります。これまでは,毎日決まった時間を教室あるいは実習場での教鞭に時間をとられていて,なかなか良質な教材づくりをすることができませんでした。

もちろん,在宅学習システムが定着しても,「実習作業」のようなものはある程度施設に直接行ってスクーリングする必要はありますから,100%生徒がいないという状況ではありませんが,今までよりはずっと時間はとれることになるでしょう。

3.一変する教材形態

このような在宅学習システムを実現させようとするときに,ポイントになることがいくつかあります。

それは,次に示すようなことになると思います。

  1. ① 在宅学習システムを可能にする高速電話回線の普及
  2. ② マルチメディア端末(パソコン)の普及
  3. ③ 供給する教材の整備

①~②はいずれ時間が解決してくれる問題だと思いますので,今回は触れません。私たちに最も関係の深い部分は③の「供給する教材の開発」という点です。

これは具体的にはどのようなものにしなければいけないのでしょうか。それはマルチメディアを取り入れた双方向なCAIシステムであると考えます。

これまでにもCAI(コンピュータを使った学習システム)は先進的な訓練形態として取り上げられてきましたが,実際の現場で広く行われたシステムにはなり得ませんでした。その理由は,

  1. ① これまでのパソコンのハードウェア環境では提供できる情報が限られていた(文字やグラフィックのみで,音声も写真も動画も出せなかった)。
  2. ② ①のような事情だったにもかかわらず教材を作るためには多くの時間が必要だった(時間をかけたわりには,「CAIならでは…」というような教材を作ることはできなかった)。
  3. ③ CAI教材を作らなくても従来の授業形態でも特に困ることはなかった(CAIを使わないと実現できないという授業はなかった)。

こんなわけで普及できなかったCAIも最近のマルチメディアパソコンの急速な普及によって一変する様相を見せてきました。まずあげられることは,最近のパソコンの多くが写真はもちろんディジタル動画も音声もすべて利用できるようになったということです。しかも,それらの扱いは,写真ならスキャナーから取り込む,動画はビデオカメラやビデオデッキから直接取り込んでディジタルデータにする,音声なら付属のマイクに向かってしゃべってディジタルデータにする,といったように特別な操作は何もありません。

これらを駆使して教材を作れば「非常にすばらしいものができそうだ」という気がしてきますし,近い将来,「マルチメディアCAI」が授業形態の常識というような時代が来るような気もします。

しかし,これを見てすばらしいとは思ってもいざこれを使って教材を作ろうということになると,状況はたぶん今までとあまり変わらないと思います。このことは,施設にマルチメディアパソコンがあるないにかかわらずです。

話を再び前の在宅学習に向けると状況はまた変わります。しかし,在宅学習システムでは,従来のような授業形態では困ることになるわけです。困るというより,できないわけです。必然的にCAIのような教材を供給するしか方法はないのです。これまでにも,パソコン通信による同様なシステムは存在しました。それらは,多くの場合文字情報のみによるものでした。そこには,「単に送られてくる文字を読むだけ」という受け身だけの形態ではなく,「出題された問題を解いて答を送る」というような双方向のやりとりはあったものの,やはりそれだけでは十分ではない分野も存在します。特に職業能力開発の分野では「実習風景のビデオを見せる」というようなことは日常的にあることです。「指導員がやって見せて説明をする」というような映像を供給することが,たとえ在宅学習でも最低限要求されることなのです。

そのようなことがいよいよ実現できそうな時代になってきました。在宅学習用に教材がたくさん開発されるようになれば,通常の授業にも確実に普及することでしょう。そんな日が早く訪れることを期待したいと思います。

次回は,「マルチメディアCAI」を実現する具体的な方法について,ハードソフトを含めて述べてみたいと思います。

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