• ポリテクセンター福島(福島職業能力開発促進センター)渡辺 正夫

1.はじめに

パワーエレクトロニクスとは,パワー(電力工学)とエレクトロニクス(電子工学)との合成語である。さらに狭い意味でいうと,パワーのためにエレクトロニクスを駆使すると考えるのが適切である。

電力変換のためにエレクトロニクスが駆使され,これらの装置がパワーエレクトロニクス装置である。

2.パワー半導体素子の応用分野

パワー半導体素子は,技術改良および応用技術の進歩によって,いろいろな用途に広く利用されている。基本的な用途は,

  1. ① 各種電気機器の制御
  2. ② 電力変換
  3. ③ スイッチ

である。主な用途を具体的にみると次のようになる。

a.DC(直流)電源

交流電力を入力して,ダイオードと組み合わせ,整流直流電源に変換する用途である。

金属の精錬や化学処理を行う電気化学工業用や電気鉄道用整流器など,比較的大きい電力の変換装置である。

b.DCモータ(直流電動機)の制御

交流電源を受けて直流電力に変え,モータを制御する用途で,サイリスタ応用の場合はサイリスタレオナード装置が代表的で,最も普及しているDCモータ制御である。

また,電気鉄道や電気自動車,サーボモータ駆動などで実用化されているものに,直流電源から可変直流電圧に変換して速度制御を行うチョッパ制御装置がある。

c.交流無停電電源装置

コンピュータ電源などのように,高信頼度運転が要求されるところに,無停電電源装置が実用化されている。

d.ACモータ(交流電動機)の制御

ACモータの可変速化,省エネ運転化などである。

特にかご形誘導電動機のインバータ運転制御が注目され,産業分野に広く応用されている。

e.家庭用電気製品への応用

パワー半導体素子は安価な制御素子であり,電気毛布の温度制御や各種速度制御,照明器具の制御および漏電遮断器など,家庭用品に数多く応用されている。

f.スイッチ

サイリスタ素子の基本動作であるスイッチ機能をそのまま応用して,高頻度で開閉するもの,例えば踏切信号機とか道路信号機などのスイッチとして応用されている。

3.高調波抑制対策ガイドライン制定および事故防止対策

資源エネルギー庁公益事業部より平成6年10月3日付けで「高圧または特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン」および「家電・汎用品高調波抑制対策ガイドライン」が通達された。

近年のパワーエレクトロニクス技術の進歩によって,半導体応用機器が広く使われるようになってきたが,これら機器から発生する高調波により,配電線等の電力系統の電圧が歪み,その結果,高圧用・特別高圧用機器,低圧用機器に障害が発生しているので,これに対する対策が示されたものである。

3.1 制定に至る経緯

高調波によって電力使用機器への障害など電力利用環境の悪化を防止する見地から「電力利用基盤強化懇談会」の報告書では,電力系統の高調波環境目標レベルを,総合電圧歪み率において6.6kV配電系5%および特高系3%が妥当であるとしている。

「高調波専門委員全」において,前記方針に沿って高調波の発生量の抑制目標値として,現状から総量で,家電・汎用品25%,需要家50%の抑制が示された。これらを踏まえ,(株)日本電気協全が,ガイドライン制定のための調査検討を行い,報告書として取りまとめた。

以上の経緯を経て,前期「ガイドライン」が制定されたものである。

特定需要家については,新設,増設,機器更新時,契約電力変更時から,家電・汎用品については,新製品の設計・製造時からガイドラインの遵守を目指すことになる。

3.2 「高圧またば特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン」の概要

高圧または特別高圧の需要家のうち,高調波発生機器の容量(等価容量換算)が,

  1. ① 高圧系統6.6kVで50kVA
  2. ② 特別高圧系22~33kVで300kVA,66kV以上で2000kVA

を超える場合に,このガイドラインが適用される。

契約電力1kW当たりの高調波流出電流上限値が表1のとおり定められている。

表1
表1

これを超える場合は対策を講じることが必要となる。

3.3 「家電・汎用品高調波抑制対策ガイドライン」の概要

家電汎用品機器を設計・製造する際に必要となる

「発生する高調波電流の抑制レベル」と「測定方法」が示されており,300V以下の商用電源系統に接続して使用する定格電流の20/相以下の電気・電子機器(家電・汎用品)に適用される。

機器がA~Dクラスに分類され,それぞれのクラスごとに定められた高調波電流発生の限度値以下とすることが必要となる。クラスC(照明機器が該当)の場合は,表2のとおり定められている。

表2
表2

3.4 高調波による事故の状況

名古屋市の科学館において,平成6年3月に高圧進相コンデンサ用直列リアクトル(定格容量6%)が,機器の外部から進入した高調波により,定格容量を超えた電流が流れたため,焼損爆発事故と負傷者1名の事故が発生した。

このような焼損事故や絶縁破壊,加熱または異常音発生の被害が最近多く発生している(例えば,電気保安協会の受託需要家において6%以下のリアクトル設置軒数約7200に対し,都市部を中心に5年度42軒の何らかに被害が発生している)。

3.5 高調波による事故防止対策

高調波障害防止の抜本対策は,高調波発生源からの抑制を進めることであり,具体的な事故防止対策は,当面,保安確保の観点から次のことが考えられる。

  1. ① 需要家への周知,特定需要家の個別管理,温度監視,高調波電流の測定等を行い,高調波の含有率に応じて,高調波耐量(高調波による発熱等に対する強度)が十分なコンデンサ,リアクトルを使用する。
  2. ② 低圧側にリアクトル付きコンデンサを設置する。
  3. ③ 夜間(終業時)力率改善用コンデンサを開放する。
  4. ④ 温度監視リレー,高調波監視リレーなどにより,異常時に自動的に電路を遮断し機器の保護を行う。

なお,リアクトルを外し,コンデンサだけで使用することは,突入電流により機器損傷の恐れがあるほか,高調波を拡大させることがあるので望ましくない。したがって焼損すると思われるものに対する緊急処置として,改善されるまでの間,一時的にリアクトル,コンデンサを取り外しておく等の措置については,よく関係者と協議することが必要である。

4.おわりに

パワーエレクトロニクス技術の進歩は非常に大きいものがある。その中でパワー半導体素子の応用分野,高調波抑制対策ガイドライン制定および事故防止対策等について,まとめてみた。

パワーエレクトロニクスについて,皆様の一助となることを期待している。

〈参考文献〉

  1. 1) パワーエレクトロニクス入門,(株)大河出版.
  2. 2) 電気工事技術情報,(財)電気工事技術講習センター.
ページのトップに戻る