溶接技術に携わっている人ならびに溶接技術を習得しようとする人は,一定の技術水準に到達すると免許を取得することができます。
免許を取得することで,就職の際に大変有利となり,また自分自身の将未の指針ができます。
昭和42年から職業訓練指導員として今日まで,訓練期間中に,より高度な免許を,そして数多くの免許を取得させることを目標の1つに掲げて指導をしてきました。
当時,20歳代の私は,指導意欲があれば受講者はついてくるものだと思い,ただガムシャラに指導し,試験の日が近づくと放課後や休日の補習授業で,合格ラインまで到達させてきました。
指導員としての経験を積み,また多くの研修を受講し,指導技法についての知識の習得,および指導方法についてもいろいろと創意工夫するなかで,これまで3級もしくは2級受験を目標にしていたのが,1級まで受験できるようになりました。しかも高い合格率をあげることができるようになり,裏当金ありの種目から,裏当金なしの種目に切り替えることにしました(昭和50年)。
裏当金なしの種目は高度な技術を必要とし,当時県内の職業能力開発校では初めての試みで,合格率の低下を心配しましたが,事前に「溶接条件」についての研究を行い,従来から行われている後退法に比べ前進法がはるかにやりやすく,しかも欠陥が少ないことを確認し,さらに条件の変化による欠陥のでき具合や修正方法等を習得することができました。
一定の指導方針を確立したうえで裏当金なしの受験にチャレンジした結果,高い合格率を達成し,指導に自信を持つことができました。
したがって他校においても裏当金なしの受験に切り替える際の参考となり,また自分自身の勉強のためと思い,さらに研究を深めてレポートを作成し,福岡県と東京都の会場において研究発表をさせていただきました(昭和54・55年)。
その後,新しい溶接方法の炭酸ガスアーク半自動溶接の免許が,企業のニーズとなり,チャレンジする以上は,高い合格率を目標とし,前回の経験を生かして再度研究に取り組みました(昭和57年)。半自動溶接の受験にも好結果を出すと,次はTIG溶接の免許と次々に新しい溶接免許へのチャレンジが続きます。指導意欲を持ち,指導方法についての研究に取り組むなかで,溶接技術習得のために設定した目標を達成することができましたが,その間休日の補習授業こそ取りやめにしましたが,放課後の補習授業は相変わらず続いています。訓練生には,就職のために数多くの免許を習得させてはいるのですが,補習にかかる時間と,経費(補習時の経費は個人負担としている)の負担がかかります。
この負担を,少しでも軽くできないものか,そのためには「もっと効果的な指導方法の導入」を,と考えたのがこのビデオ教材です。
溶接技術習得のポイントは,金属の溶融状態を十分に理解できるようになることです。金属の溶けた状態をよく観察して,溶接中の欠陥がないことを判断できるようになること,例えば,①ビードの盛り上がり具合はよいか,②幅はそろっているか,③ビード波形はきれいか等が溶接中に確認できるようになることが大事です。溶接中にこれらのことが判断できなければ作業後に欠陥に気づくことになります。
この場合,手直し作業をしなければならず作業ロスになり,また検定試験の場合は不合格となります。
溶接中の,溶融池の状態が判断できるようになれば,次は溶接状態の悪いとき直ちに修正できる技術の習得が必要となります。金属の溶けた状態で溶接の欠陥を確認でき,それを修正できれば,製品の欠陥の発生を未然に防ぎ,また短時間で修正する技術等,溶接作業上成否に係る重要点に役立てることができます。
この「鉄の溶けた状態」を説明する場合に,ビデオ教材がわかりやすく効果的ではないかと考え,昭和57年頃から制作にとりかかりました。
カメラ操作に関しては,これまで他の実技訓練で利用していたので大きな問題はありませんでしたが,溶接中の強烈なアーク光により,ハレーション現象が起こって,制作の目的である「鮮明な溶融池の撮影」ができずに苦労しました。
試行錯誤を繰り返すなかで,フィルタを数枚重ねることや,適度な照明が必要なことがわかり,その結果溶融池の撮影に成功して,見本教材の制作を開始したのですが,最大限まで拡大しても画面が小さく,満足できるものではありませんでした。試行錯誤の結果,マクロ(接写)レンズが最適であることがわかり,早速取り寄せて使用したところ,溶融池から30~40cmくらいの位置までカメラを近づけなければならず,今度はスパッタ(火花)の発生により,カメラ(レンズ)を保護するための防護板の作成が必要となりました。
さらに溶融池をより鮮明にするために,7色のパラフィン紙を利用していろいろと組み合わせることにより,より鮮明な溶融池を撮影するための試行錯誤を繰り返しました。
その結果,納得のいく撮影をすることができ,見本教材を制作すると同時に受講者の練習内容を撮影し,教材として活用した結果,受講者から大変わかりやすいと好評をいただきました。しかし利用中は説明が必要です。一度で理解できる受講者と,二度三度繰り返さなければ理解できない受講者がいます。溶接が目標値まで達成できない場合には,その都度,自由にビデオ教材で自学自習ができるようになれば,訓練効果がさらに向上するのではないかと考えて,テープに説明を入れたり,もっと順序よく内容を組み立てるための編集が必要であることに気づき,能開大で行っている「ビデオソフト制作の基礎」研修の受講を希望しました。
平成4年5月,研修に参加させていただき,台本ならびにパターンの作り方,カメラ操作,BGM,アフレコ等編集についての技法を学び,待望の溶接ビデオ教材を1巻制作し,おおむね満足の域に達しました。
私の目標は,10巻くらいの制作を考えていたので,研修終了後,早速制作についての計画を立てることにしました。
平成4年10月から台本の制作に取りかかり,約1年6ヵ月間を要して,平成6年3月に全9巻を完成いたしました。
制作のねらいは,
などを目標にして,次の内容のものを制作いたしました。
常日頃から正しい服装で作業することを心がけるようにし,災害が発生しないように注意が必要なこと。
感電して電撃を受けたり,スパッタで火傷をしたり,アーク光によって眼を痛める等の災害が発生しないように,保護具を正しく着用することが必要なこと。
特に,遮光ガラスの濃度が薄い場合は目を痛め,濃いすぎると溶融池が見えにくいので技術の向上を防げることになり,濃度の選択が大事なこと。
ケレンハンマ,ワイヤブラシ,片手ハンマ,たがね,火ばし,電流計等の道具を事前に準備しておき,必要に応じて正しく使用することができること。
接続部のゆるみや露出部がないか,絶縁カバーがはずれていないか,不良品はないかをよく点検して感電の原因を取り除くこと。
電流計のクランプは良いか,アーク電流,短絡電流の違い等を理解して,正しい取り扱いができるようになること。乱暴な取り扱いは,故障の原因となるので注意が必要なこと。
母材に油脂類や錆等が付着していると,欠陥ができる原因になること。
棒をホルダの溝にきちんと合わせること。溶接姿勢は身体全体の力を抜いて楽な姿勢をとれば,身体が安定し腕の安定につながること。ハンドシールドで顔を保護するタイミング等を習得できるようになること。
母材の溶接箇所以外の位置に発生させるとアークの痕跡が残り割れの原因になるので,アークの発生は目標位置で正確に発生させることができるようになること。
溶接条件をよく理解して条件の設定を正しく行って,良い1層目が置けるようになること。
波形がきれいで,真っすぐ進み,幅と高さがそろっていること。
溶接中にどのようなビードができているのか理解ができ(見えるようになり),悪いビードができている場合には,どのように修正すれば欠陥を未然に防ぐことができるのか,その修正方法を習得できるようになること。
アークの発生位置が大事なこと。始端まで戻る距離を正確に合わせること。アーク長を適正に保つこと等に注意して,溶接中に良いスタートか悪いスタートかが理解(判断)できるようになり,悪いスタートの場合はその修正方法を習得できるようになること。
スラグ巻き込み等の欠陥ができないように,クレータ部の清掃をきちんとすること。アークの発生位置が大事なこと。クレータ部まで戻る距離を正確に合わせること。アーク長を適正に保つこと等に注意して,溶接中に良い継ぎ方か悪い継ぎ方かが理解(判断)できるようになり,悪い継ぎ方の場合はその修正方法を習得できるようになること。
アークが長くなるとスパッタが多くなり,効率が悪くなるので注意すること。アークを切ったり再アークを発生させるタイミングが大事なこと。
クレータ部がどのくらい盛り上がればよいか等が習得できるようになること。
溶接条件をよく理解して条件の設定を正しく行って,良いウィービングビードが置けるようになること。
波形がきれいで,真っすぐに進み,幅と高さがそろっていること。
溶接中にどのようなビードができているのかが理解でき(見えるようになり),悪いビードができている場合には,どのように修正すれば欠陥を未然に防ぐことができるのか,その修正方法を習得できるようになること。
アークの発生位置が大事なこと。始端まで戻る距離を正確に合わせること。アーク長を適正に保つこと等に注意して,溶接中に良いスタートか悪いスタートかが理解(判断)できるようになり,悪いスタートの場合はその修正方法を習得できるようになること。
スラグ巻き込み等の欠陥ができないように,クレータ部の清掃をきちんとすること。アークの発生位置が大事なこと。クレータ部まで戻る距離を正確に合わせること。アーク長を適正に保つこと等に注意して,溶接中に良い継ぎ方か悪い継ぎ方かが理解(判断)できるようになり,悪い継ぎ方の場合はその修正方法を習得できるようになること。
アークが長くなるとスパッタが多くなり,効率が悪くなるので注意すること。アークを切ったり再アークを発生させるタイミングが大事なこと。
クレータ部がどのくらい盛り上がればよいのか等が習得できるようになること。
コンタクト溶接の仕方
溶接条件をよく理解して条件の設定を正しく行って,良い1層目が置けるようになること。
裏当金なしの1層目は,開先内溶接の中でも非常にむずかしく,しかも成否を左右する。
アークを出している状態で良い溶接ができているのか,悪い溶接ができているのかが理解できるようになること。悪い溶接ができている場合には,その修正方法を習得できるようになること。
この章では前進法のアーク長を保つ仕方を説明している。
溶接条件をよく理解し,条件の設定を正しく行って,良い1層目が置けるようになること。
裏当金なしの1層目は,開先内溶接の中でも非常にむずかしく,しかも大事な箇所である。
アークを出している状態で良い溶接ができているのか,悪い溶接ができているのかが理解できるようになること。悪い溶接ができている場合には,その修正方法を習得できるようになること。
溶接条件をよく理解し,条件の設定を正しく行って,良い2層目が置けるようになること。
アークを出している状態で良い溶接ができているのか,悪い溶接ができているのかが理解できるようになること。悪い溶接ができている場合には,その修正方法を習得できるようになること。
溶接条件をよく理解して条件の設定を正しく行って,良い3層目が置けるようになること。
アークを出している状態で良い溶接ができているのか,悪い溶接ができているのかが理解できるようになること。悪い溶接ができている場合には,その修正方法を習得できるようになること。
溶接条件をよく理解して条件の設定を正しく行って,良い仕上げビードが置けるようになること。
アークを出している状態で良い溶接ができているのか,悪い溶接ができているのかが理解できるようになること。悪い溶接ができている場合には,その修正方法を習得できるようになること。
このビデオ教材は,金属の溶融という高温時の瞬時作業条件を満足させています。初心者にも経験者にも活用していただき,今後技能者育成の教材となれば幸いと思っています。まだまだ改良点も多くありますが,所期の目標をほぼ達成できたと考えています。
溶接技術の「勘」や「コツ」を,わかりやすく教える1つの方法として,現場での実演がありますが,この方法では多人数の受講者に同時に見せることができません。また金属の溶けた状態を確認するためには,実演者と同じような距離(30cm程度)で見せる必要がありますが,この場合,同時に見せることのできるのは数人が限度です。さらに実演では,指導員の技術差や,その時々での出来栄え,適切な条件説明等の善し悪しがあるなど,的確な指導をすることに困難性が伴います。したがって受講者が納得するまで何度も繰り返しやってみせることは容易ではありません。
その点,実演による指導にビデオを併用して指導すれば,今までの指導法の欠点や困難であった部分を補うことができると確信しています。
私たちの周りには,まだまだ必要としているビデオ教材は数多くあります。今後もビデオ教材の開発に向けて努力していく所存です。
なお,ビデオ制作にあたり,能開大研修研究センターの高橋辰栄先生をはじめ,多くの皆様方のご協力,ご助言をいただきましたことを誌面をおかりして,お礼申し上げます。