2023年1号「技能と技術」誌311号
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H:4⑧ アイドリング・ミクスチャ・チェックこの点検は,ミクスチャ・レバーがフルリッチの位置で混合比が適度に濃くなっていることを確認している。(空燃比11.1:1)ミクスチャ・レバーをフルリッチ(最前方)から手前(リーン側)に操作し,燃料遮断(カットオフ)寸前に上昇する回転数の最大値を見極めることにより確認している。TB10型の例では20~40RPM上昇が規定値である。なぜここで回転数が上昇するかを理解することが重要である。アイドリング時にはミクスチャ・レバーの前方操作広範囲(フルリッチ~かなり手前まで)において燃料流量は変化しない(濃いまま)。かなり手前からさらに手前へ引くと,燃料の遮断が始まり混合比が薄くなり,やがてエンジンは切れる(停止する前にフルリッチに戻す)。その間に最良出力混合比となる所があり,その時に回転数が最も上昇する。この上昇回転数が大きいときはフルリッチ状態での混合比が濃いことを意味し,上昇回転数が小さいときはフルリッチ状態での混合比が薄いことを意味する。調整が必要な場合は,気化器のアイドリング・ジェット孔の開口面積を変える調整ネジにより行う。CW(時計回り)に回すと開口面積が減り,燃料流量が減ることにより混合比が薄くなる。結果,ミクスチャ・チェック時の上昇回転数が減る。CCW(反時計回り)に回すと開口面積が増え,燃料流量が増えることにより混合比が濃くなる。結果,ミクスチャ・チェック時の上昇回転数が増え-22-る。経験上,1/2回転(180°)で約10RPM増減する。この調整を行った場合には,Gのアイドリング回転数も変化するため,再度アイドリング回転数の調整が必要となることもある。アイドリング時に混合比を濃くする理由は,文献[2]に次の記載がある。「緩速運転時にはバルブ・オーバーラップが高出力状態に適するように設定されているため,燃焼室内に排気が残って混合気を薄め,またエンジン温度も低く燃料気化が不十分となるので混合比を濃くする必要がある。」なお,アイドリング操作GおよびHはなるべく短時間で完了するよう心掛ける必要がある。長時間行うと,点火プラグの汚染が進み失火の原因となる。I:4⑨ 加速チェックこの点検はFのミクスチャ・チェック同様,ピストンエンジン機の現在のマニュアル上には規定されていない。良否判定基準を定めることが難しいからであろう。実施する場合はスロットル・レバーを緩やかに操作し,1000RPMから2000RPMまで2.5秒程度で加速できればそれでよしとしている。急激な操作をすると必ずアフターバーニング(後述)を起こすので避けなければならない。一般的にピストンエンジンの加速は大変よく,問題となることはない。一方,タービンエンジンにおいては重要なチェック項目となっている。当航空機整備科では,多くの学生が就職先でタービンエンジン機を取り扱うことになるので,参考としてこの項目を残している。

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