2022年3号「技能と技術」誌309号
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図1 (例)強化・消去の関係性るこれから述べる各種の指導技法普及を行う上で,以下の支援に関する基本的な考え方を理解しておくことが必須となる。原理・原則を踏まえて業務を行うことによりで,指導技法普及の質が一定に保たれるのである2.1 バイスティックの7原則[1]①個別化の原則…クライエントを個人としてとらえ②意図的な感情表出…クライエントが自己の感情を気兼ねなく表現できるように援助者が関わる③統制された情緒的関与…援助者が自らの感情を自覚,吟味して,クライエントの感情に対して適切に反応すること④受容…クライエントのありのままの姿を,道徳的批判等を加えずに受け止める⑤非審判的態度…援助者が自分の倫理観や価値観のみで,クライエントを一方的に非難してはならない⑥自己決定…クライエント自身の生活における選択をする際に,その選択肢を選ぶ最終的な判断をクライエント本人にしてもらうという原則⑦秘密保持…クライエントから知りえた事柄の守秘義務ここでいう「援助者」と「クライエント」の関係は,職業訓練の場面では「職員」と「訓練生」との関係である。また指導技法普及の場面においては「指導技法普及担当者」と「指導技法普及の対象となる施設や,施設で働く職員(以下「指導技法普及対象」という。)との関係である。指導技法普及対象は職業訓練に関するさまざまな困りごとや悩みを持っており,一つとして同じものは存在しない。その一方で,皆が共通する基本的なニーズを持っていることも認識しなければならない。それは“感情を表現し伝えたい,きちんと受け止めてほしい”というニーズであり,“一方的に非難されたり,問責されることは望まない”というニーズ,そして“個別-2-的な指導技法普及対象として対応してもらいたい”というニーズである。さらには“自分で決定を下したい”というニーズであり,“秘密は守りたい”というニーズである。指導技法普及を担当する者は,これらのニーズを強く意識し,指導技法普及対象との信頼関係を築き上げるよう努めければならない。2.2 応用行動分析[2]職員が訓練生と関わる上で,訓練生側の行動原理を考えることが大切である。訓練生にとって好ましいもの,訓練生の行動の直後に現れるとその行動を増やすもの「好子(こうし)」,訓練生にとって嫌なもの,訓練生の行動の直後に消えると,その行動を減らすもの「嫌子(けんし)」について考える。これは訓練生ごとに異なり,同じ訓練生でも置かれた環境や状況によっても変化することにも留意する。行動の後に訓練生にとって好ましい結果が伴うとその行動は将来的に起こりやすくなる(強化の原理)。しかし行動の後に強化が伴わない場合,その行動は低下する(消去の原理)。また行動の後に嫌な結果が伴うとその行動は将来的に起きにくくなる(弱化の原理)。これらの行動原理を頭に入れ,目の前の訓練生への対応を検討していくのが望ましい。また職員が訓練生の何かしらの行動を改善しようとした場合,その標的行動(ターゲット行動)をはっきりさせておくことが重要である。2.3 氷山モデル訓練生個々に,異なった特性があり,訓練場面によってそれがさまざまな行動や言動を伴い現れることがある。それを目に見える部分だけで直感的に判2.指導技法普及を実施する上での基本的な考え方

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