2022年3号「技能と技術」誌309号
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ろう。彼を題材にした,講談や落語は江戸時代から常に大ヒット。人々の心をつかみ,今も残る名作になっている。この文章のお手本となった「三井の大黒」以外にも「竹の水すい仙せん」「ねずみ」「たたき蟹かに」などがある。時代とともにいろいろな手が加わり,実像からはかなりデフォルメされてはいるようだが,左甚五郎も名人ならば,これらの話を作った講談や落語の師匠もその道の芸を極めた達人名人。いずれも真の名人の心ここ根ろねを映した深みのある作品となって面白い。が,あまりにも,本物の職人の実像からかけ離れたデフォルメも多い。失礼ながら「現場を知らないからな」と,私は思ってしまっている。同じデフォルメでも,職人の風景に寄せていったらどうなるか。私はポリテクセンター福岡で,現代の甚五郎集団ともいうべき「北九州マイスター」の名工の方々に出会うことができた。二枚の板を合わせた甚五郎をさらに上回るような,マイスターの方々の凄すご腕うで,神かみ業わざを目の当たりにしてきた。いい仕事を後世に残こそうと身を削り,獅し子し奮ふん迅じんの影の努力を,人知れず,長年続けていらっしゃる。その姿と,私の心の甚五郎の姿が重なる。これからも,左甚五郎や,マイスターの遺伝子を受け継ぐような名工が,この日本からたくさん生まれることを願っている。【参考】落語「三井の大黒」;三代目桂かつらみきすけ三木助落語「三井の大黒」;六代目三さんゆうていえんしょう遊亭圓生-37-

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