2022年3号「技能と技術」誌309号
32/42

図6 自作した蜘蛛巣線輪(上部コイル)図8 自作した蜂巣線輪(下部コイル)図7 上部コイルの裏面放送開始当時の受信機に採用されたコイルには,コンデンサと比較して,極めて多くの形状の物がある(7)。これは,コンデンサと比較して,精密な機構が必要なく,生産も容易であったためと考えられる。また,当時の受信機は,コイルが筐体外部に露出して配置されていたり,筐体内部が見える構造になっていたりするものが多く,意匠的な美しさについても考慮し,コイルの構造には細心の注意がはらわれながら設計されたためであると考えられる。また,文献(8)には,大正15年当時よく用いられているコイルとして,以下のものが挙げられている。1)ソレノイド・コイル(單層圓筒型)2)スパイダー・コイル(蜘蛛の巢型)3)ハネカム・コイル(蜂の巢型)4)バンク捲コイル(俵積型)5)バスケツト型コイル(籠型)同文献には,補足説明として,普通に用いられるのは,1)~3)の型であり,特に3)は高周波チョークや中間周波トランスに主として用いられるとある。その理由として,『回數を多くしても割合に場所を多く取らぬからです』としている。本制作では,スパイラルコイル(スパイダーコイルともいう)を題材として作製した。今回作製した上部コイルを図6および図7に示す。本受信機の回路は,図1に示したとおりであるが,本機では上部コイルと下部コイルの2つのコイルを使用している。上部コイル・下部コイルともに絹巻線を用い,レーザ加工機で切り抜いた木製の型枠に巻いて作製した。上部コイル(図6)は,アンテナと内部の回路のインピーダンスマッチングを取るために用い,20回ごとにタップ切り替えできるよう引き出し点を設け(図7),これを120回まで巻いたものである。使用する際は,導電性クリップによって最も感度が良いタップを探しながら受信をする。下部コイル(図8)はコンデンサと一体となって同調回路を構成し,所望の周波数を選択するために使用するものである。1次側巻線と2次側巻線を同時に巻き始め,-30-1次側を15回,2次側を60回巻とした。コイルに使用した電線は,絹巻線(線径0.15 mm)のものである。絹巻線は,電線の周りの絶縁被覆として,極めて細い絹糸が使用されているものである。コイルとして完成したときの色合いが良く,古い受信機の再現にはよく適合するが,比較的入手が困難で,例えば,秋葉原駅周辺の電気街にあるラジオ関連の店舗でごくわずかに扱われている程度である。3.蜘蛛巻線輪(スパイラルコイル)

元のページ  ../index.html#32

このブックを見る