2022年3号「技能と技術」誌309号
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障害者雇用については,障害者雇用率制度における法定雇用率によって,障害者の雇用数は着実に伸びてきている。さらには差別の禁止・合理的配慮の提供の義務化などさまざまな法改正を経て,障害者の働く環境は改善され,障害者の雇用の質も向上してきている。このような状況で,労働新聞の特集「~能力を生かす!伸ばす!~障害者雇用」[1]の記事では,『労働力人口減少への対策として「女性活躍」,「外国人採用」,「高齢者採用」に注目が集まっている。障害者採用は労働力としてあまり認知されていないように感じるが,採用や定着支援の仕方次第で,障害者は戦力になる。障害者雇用は単に法定雇用率を達成するために行うのではなく,会社・組織を変える好機と捉えて取り組むべきものである。(第1回掲載)』『平成30年度障害者雇用実態調査結果[2](以下「雇用実態調査」という。)によると,障害者を雇用するに当たっての課題の第1位は,「会社内に適切な仕事がない」であった。障害の種類を問わず,回答結果で最も多かった「会社内に適切な仕事がない」という問題は,実際に障害者を数多く受け入れている企業からは聞こえてこない課題だ。むしろ「実際に雇ってみたら,いろいろできるので驚いた」,「任せない方が良いだろうと勝手に判断していた仕事も,任せてみたらできた」と話す企業が多い。障害者雇用をきっかけに,社内の業務や風土を改善していくことは,障害者のみならず,全従業員にとって良いことのはずだ。(第3回掲載)』障害者雇用を前向きな企業は,全従業員の働き方の改善等につながっていると考えられる。また当機構の「企業経営に与える障害者雇用の効果等に関する研究」[3]によれば,在職障害者の能力開発の効果について,目指しているのは「障害者の戦力化」というよりは,「障害者を戦力化できる職場」と考えたほうが適切かもしれないとしている。その効果は,戦力化への取り組みの結果発揮される事業への貢献だけではなく,障害者を雇用し戦力化するためにとられたさまざまな取組が,職場や企業全体にもたらす効果も加わってのものと考えるとしている。-26-在職者訓練のニーズについては,独立行政法人労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」[4]によると,Off-JTを実施した企業が34.2%となっている。また従業員に対して実施する人材育成・能力開発の教育投資は,「職場の生産性の向上」について,9割近くが「効果がある」,「ある程度効果がある」と回答している。また今回の調査結果からもスキルアップのための研修は,Off-JTを活用しての研修を希望している企業が,一般企業が33.6%,特例子会社が70.8%であり,在職者訓練ニーズはあることがうかがえ,さらには障害者雇用が企業の職場の改善や変革につながるというメリットもあるという報告から,在職者訓練ニーズは十分にあると考えられる。在職者訓練の今後の方向性については,①障害者の求職者訓練は全国の障害者校,一般校および民間教育訓練施設において実施しているところであるが,在職者訓練は実施地域が限定されている。企業アンケート調査結果や研究会の検討から,在職障害者の人材育成は,企業においてOJTを基本とするところも多いが,企業の規模等によっては,企業内における人材育成の環境やキャリア形成の方針等に応じてOff-JTを活用している状況があり,それらの在職者訓練ニーズに応えられるだけの受け皿を設定することが考えられる。②在職者訓練の内容としては,パソコンを活用した事務処理や広告作成,マネジメントやコミュニケーションのビジネススキル向上などの専門的な技能・技術や資格等が必要な仕事で研修ニーズが高い傾向となっていた。また雇用実態調査において,精神障害者の平均勤続年数は「3年2カ月」であり,身体障害者の「10年2カ月」,知的障害者の「7年5カ月」と比べても低く,今後の企業の障害者雇用の課題解決のひとつであり,障害者への理解を深めるための研修,助言,指導の研修を望む声もあった。③「障害者訓練を担当する指導員等に関する調査研究報告書」[5]の中で障害者校では約8割の施設で指導員が不足している状況であり,都道府県営の障害者校の指導員は,一般校からの異動により補充し,十分な研修がないままに担当するケースが多い

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