2022年2号「技能と技術」誌308号
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職業能力開発領域は,理系研究者のみならず,文系研究者にとっても興味深い研究課題の宝庫である。職業能力に関する最高学府としては,職業能力開発に関する学理の究明と応用に取り組む責務がある。想定される研究課題には,例えば以下のようなものが挙げられる。(1)さまざまな産業分野における職業能力および職業能力開発を俯瞰的に考察し,学術面からの定義,国際比較,学術体系を策定する。(2)教育・訓練対象者の人間的特性,民族性,地域性,生産文化を考慮した職業能力開発の系統的方法論を確立する。(3)国,地域,産業分野,職種を対象とした職業能力を構成する「技能・技術」,「知識」,「姿勢・態度」の定式化,デジタル化,優先順位の設定等に取り組む。(4)職務遂行に必要となる意思決定過程における入出力情報,経験,勘の定性的分析,定量的分析を行う。(5)職業能力を構成する「技能・技術」・「知識」・「姿勢・態度」の3要素の相互関係,相互作用を解明する。(6)「技能・技術」・「知識」・「姿勢・態度」を含めた職業能力の伝承・教授方法・習得方法を定式化する。(7)熟練者の保有する技能を作業用ロボット制御に移植するための方法論を提示する。(8)さまざまな職種の職業能力の定性的・定量的評価方法を提案する。(9)職業能力開発における教育・訓練プログラム策定に必要な参照基準を設定する。なお,職業能力開発総合大学校では,「ものづくりの技能を科学する」の観点から技能科学の確立をめざして,技能の科学的解明に関する研究活動が進められている(5)。-3-産業競争力を強化するためには,図5に示す産学共創・体系化・蓄積・伝承の一連のサイクルを循環させることが必要である。なお,このようなサイクルは,かつての社会では陽に意識されていなかったものの,暗黙の内に機能していたと考えられる。(1)産学連携強化による職業能力の共創:個別の組織体では,新たな職業能力の定式化やデジタル化の取組は困難である。今後は,緊密な産学連携・産学共創により,新たな職業能力の創出に挑戦する。(2)職業能力の学術的体系化(学理の究明):学術領域として未確立である上,ものづくり研究者層が薄くなり,学術的体系化が行われていない。学術面からの解明が行われていなかった課題について職業能力に関する学理の究明を遂行することにより,学術体系化を行う。(3)職業能力の蓄積(データベース化):国立大学の講座制の崩壊により,知識・技術の蓄積機能,いわゆる智と技のデータバンク機能が失われている。技術・技能は人についていくことが知られているように,熟練技能等はもはや散逸の運命にある。産学官共創により,職業能力の共有データベースを構築し,体系化された知識データの継続的蓄積を行う。(4)職業能力の伝承(教育・訓練のDX化):国立大学における講座制の崩壊により,産業界およびアカデミアの世代間伝承機能,教育機能も同様に喪失している。今後,教育・訓練プログラムのDX化を推進し,人材育成プログラム,リスキリングにより,社会における技術者の再戦力化を推進する。4.職業能力開発に関する研究課題5.職業能力開発の高度化による産業競争力  強化サイクルモデル

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