2022年2号「技能と技術」誌308号
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図2 IndustrialCompetitivenessofManufacturingIndustry図4 VocationalAbilityDevelopmentBasedonMechanicalEngineering図3 DefinitionofVocationalAbility「職業能力開発」は,国の法律である職業能力開発促進法第3条に,「職業に必要な労働者の能力を開発し,および向上させること」(2)と記述されるにとどまる。関連する学術論文を参照しても職業能力に対して明確な定義を与えるには至っていない。本稿では職業能力が,図3に示す「技能・技術」,「知識」,ならびに「姿勢・態度」の三要素から構成されると考えて議論を進める。(1)技能・技術:身についた技と技術であり,経験によって習得でき,身体的な動作として発揮される。伝統的な技術に加えて知識との連携や意思決定過程を含む高度な技能を含む場合もある。(2)知識:概念化された言語の集合や科学的根拠,原理・原則に基づいて整序されたデータ体系であり,科学的知識を含む。(3)姿勢・態度:与えられた職務に取り組む際の姿勢や態度をいう。コンプライアンス意識やコミュニケーションなども含まれる。従来,本要素については十分に議論されていない。ここで第3要素の「姿勢・態度」は,第1要素の「技能・技術」および第2要素「知識」を発揮するための前提条件である。このことは人材育成の際に「技能・技術」と「知識」を付与するだけでは,必ずしも職業能力を備えた人材育成を行えないことを意味する。-2-今後,製造産業に貢献する高度人材を育成するためには,3要素「技能・技術」・「知識」・「姿勢・態度」のバランス,3要素による相互作用について十分な検討を行った上で,職業能力開発に取り組むことが基本的に重要である。ところで職業能力開発は,広範な科学・技術分野に深い関わりを有するさまざまな科学・技術の集積である。図4には「機械工学を中核とする職業能力開発」の学術領域を示す。高度化,複雑化する産業ニーズに対応可能な職業能力を獲得,育成するためには,長い歴史の間に蓄積された技能や技術を単に分析,整理するだけではなく,さまざまな製造産業における製造プロセスやプロダクトの創出過程において生じるさまざまな現象,事象,イノベーションを科学的に解明し,新たな学術領域として体系化する必要がある(3)。そのような学術的なアプローチが行われない限り,職業能力の定式化,蓄積(データベース化),世代間伝承(教育・訓練)は実行されないし,新たなイノベーションの創出にもつながらない。今後,職業能力開発は,地域性,国民性・民族性,生産文化等との関係を解明する(4)といった新たな観点からの学術研究課題も重要となる。3.職業能力開発に関する学理

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