2022年2号「技能と技術」誌308号
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は800番のやすりによって研磨して使用することとした。また,一部の愛好家の間では,鉱石の産地によって性能が大きく異なることが知られている(21)。そこで,今回入手できたアメリカ合衆国ミズーリ州産出のものと岐阜県神岡鉱山産出のものの2種類の方鉛鉱について,I-V特性の比較を行った。実験結果を図11に示す。同図より,産地によりI-V特性に違いがみられるといえる。ミズーリ産のものは,順方向特性が優れているものの,逆方向阻止特性は劣っていることが確認できる。一方,神岡産のものは,順方向特性はミズーリ産のものよりも劣っているものの,逆方向阻止特性は優れていることが分かる。鉱石ラジオは0.2~0.3V程度の極めて低い電圧で使用するため,本サンプル品においてミズーリ産のもののほうが鉱石ラジオに適していると考えられる。この検波性能の違いが何に起因しているのかは不明だが,おそらくは不純物の含有の程度であると考えられる。例えば,文献(19)によると,産地によって含有成分が異なることが報告されている。また,文献によると,鉱石検波には次の性質があるとされる(22)。一、鑛石は永久に使用出來るものと思ってはいけません。時々新しいものと取更える必要があります。二、鑛石は時々掃除しなければいけません。それにはアルコール或いはベンジンで洗へばよいのであります。但し,石油は禁物です。三、鑛石を取扱ふ場合決して直接に指を觸れてはいけません。必ずピンセットを御用ひなさい。四、鑛石の良好な表面を探しあてたならば當分,そのまゝ接觸針を動かさずに置いて聽取なさい。聽取の度毎に接觸部をかへる必要はありません。五、鑛石の良好な表面でも,長くその一點のみ用ひていると不良になります。その場合には又別の點を探るのです。そして新しい接觸點を用ひている間に,またもとの點が良好に復活します。六、接觸針の尖端がさびてゐたりせぬ樣常に注意しなければなりません。-29-七、接觸針は始終同じの物を用ひてはいけません。時々其尖端を少しく切るか,又は新しい針と取更える必要があります。八、鑛石との接觸は輕い方が良好の効果を表はすのそのほか,筆者らの試行の結果,次のような点に注意した方が良いようである。①方鉛鉱の鉱石サンプルは,不純物が少ない物のほうが良好な性能が得られやすいようである。筆者らの手持ちのサンプルでは,手で軽く触っただけで,ぽろぽろと崩れるほどもろいサンプルのものが,最も性能が良いようであった。②鉱石の表面を針で探るときは,表面を傷つけることの無いよう注意する。傷が多くなったときは,研磨などにより傷を除去すること。③良好な性能が得られた接触点では,一度針を離し,再び同じ位置に針をあてても,前回と同様に良好な検波性能を得られやすい。④鉱石表面を,800~1000番程度のやすりを使って研磨した場合に良好な検波性能が得られることは前述のとおりであるが,番手が大きくなるほど,安定性が悪化するという傾向もある。番手が大きく表面が平滑に加工されたサンプルでは,軽微な振動でも針の接触点が移動してしまいやすいことも,その原因の一つであると推測できる。⑤黄鉄鉱の場合,平滑な表面ではよい性能が得られることはまれである。筆者らの試行では,2つの結晶の境界部分で,非常に安定した検波性能が得られた。性能面では方鉛鉱に劣るが,安定性・再現性は方鉛鉱をしのぐほどであった。以上,鉱石検波器に関する文献調査の結果と筆者らの実験から得られたノウハウについて紹介した。鉱石検波器は,その動作が極めて不安定であり,上記には再現性が悪い事象もあると思われるが,今後の実験結果の蓄積により,より精度を増した結論を得ていきたいと考えている。ラジオ受信機を組み立てて実際に聴取しようとする際,万が一感受できなかった場合に,それが鉱石検波器の不安定な動作に起因するものなのか,それともその他に原因があるのかが特定しにくいというであります。

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