2022年2号「技能と技術」誌308号
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図1 PESTFactorsSurroundingManufacturingIndustryinJapan現在,少子高齢化社会に適合した社会構造の変革や新産業分野への展開に対応する高度人材の育成と輩出を担う職業能力開発の重要性が著しく高まっている。今後,日本の産業基盤である製造産業を取り巻く環境を勘案すると,製造産業の産業競争力強化が重要な政策課題になると予測される。製造産業の産業競争力強化と職業能力開発機能は密接な相互関係を有することから,職業能力開発の強化は国家の繁栄を維持する観点から必要不可欠である。本稿では職業能力開発について重要と考える次の3項目について論じることにする。(1)従来,曖昧な表現にとどまる「職業能力」を明確に定義すると共に,今後,職業能力開発を新たな学術領域として創成する上で解決すべき学術研究課題を明らかにすること。(2)日本の製造産業を取り巻く環境を多面的に分析すると共に,産業競争力を強化するためには,職業能力開発機能の強化が有効な手段になり得ること。(3)製造産業の産業競争力を強化する上で有効と考えられる職業能力開発を中核とする戦略的マネジメントサイクルを提案すること。職業能力開発総合大学校は,職業能力開発に関するわが国唯一の中核教育研究拠点である。当該研究分野の最高学府として,創設以来の職業訓練指導員の養成と輩出に加えて,新たなミッション「職業能力開発に関する学理の究明と応用」に取り組むべきであると考える。-1-日本の製造産業を取り巻く環境は,図1に示す政治的要因(P要因),経済的要因(E要因),社会的要因(S要因),ならびに技術的要因(T要因)で記述される。今後,国際情勢の劇的変化,少子高齢化社会の到来による人口動態,資源・エネルギーの確保,デジタルトランスフォーメーション(DX)化の進展等を勘案すると,具体的な方策を講じない限り,グローバル環境における日本はますます厳しい状況に陥るであろうことは容易に想像できる。製造産業の産業競争力(1)は,図2に示すように市場関連競争力,製品関連競争力,ならびに組織関連競争力から構成される。図中で赤色系の配色を付した市場関連,製品関連,ならびに組織関連の各要素は,職業能力開発の機能におおむね依存していると考えられる。したがって産業競争力を強化するためには,職業能力開発機能の強化が有効であると考えられる。職業能力開発総合大学校長新野 秀憲1.緒 論2.日本の製造産業の産業競争力強化職業能力開発に関する学理の究明と応用

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