2022年2号「技能と技術」誌308号
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大正15年のラヂオ年鑑(20)によれば,当時の鉱石検波器に採用された鉱石について,次のような記述がある。『逓信省電氣研究所では,(中略)其の調査主任であつた現工科大學教授工學博士鯨井恒太郎氏は「黄鐵鉱」「黄銅鑛」「紅亞鉛鑛」「方鉛鑛」以下五種の鑛石の檢波器として使用し得られることを發見した。其の後(中略)遂に數百種の鑛石の中から「紅亞鉛鑛」と「斑銅鑛」と組合はせたものゝ感度鋭敏にして理想的檢波器であることを發見しこれに對する特許を得た。』紅亜鉛鉱では,方鉛鉱や黄鉄鉱のように金属針を図4 方鉛鉱図5 黄鉄鉱図6 紅亜鉛鉱(天然・写真の赤い部分)図7 紅亜鉛鉱(人工)微弱な電流が発生する熱による「熱的破壊」による説なども検討されたようであるが(15),現代において支持されているとはいいがたい。また,ショットキー効果により説明できるとするものもあれば(16),それを不足とみる文献(17)もあり,定説をみない。おそらくは,ダイオードの出現によって,鉱石検波の原理的な解明を待つことなく産業的な価値を失ってしまったため,それ以上の研究価値がなくなってしまったのであろう。結局のところ,なぜ鉱石によってこのような現象がおきるのかが解明されていない以上,試行錯誤的な実験によるノウハウの習得以外に高性能な鉱石検波器を入手する方法がないのが現状である。前述のとおり,鉱石検波器は方鉛鉱などの天然鉱石に軽度の圧力をもって金属針を接触させるものである。これらの構造は極めて簡単なものであるので比較的容易に再現することが可能であるが,その動作は極めて不安定なものであり,試行錯誤的なノウハウの習得が必須である。具体的には,鉱石表面のどの位置に金属針をあてるかによって,検波器として全く動作しない場合もあり,金属針をあてる位置を『探り』ながら決めていく必要がある。そのため,このようなものは「探り式鉱石検波器」と呼ばれた。探り式検波器はラジオ受信機の草創期に広く採用されたもので,調整桿(かん)と呼ばれるつまみがあり,このつまみが金属針と連動し,つまみを回すことによって鉱石と針先の接触点を調整できるようになっていた。その後主流となった「固定式鉱石検波器」は,ガラス管内に鉱石と接触針が封入されており,金属針と鉱石の接触点が最適な点から動くことの無いよう,金属針と鉱石がともに固定されていた。しばらく使用して性能が低下したときには,検波器ごと取り外し,交換ができるようになっていた(1)。鉱石検波器を作製するうえで,鉱石の選定は非常に重要である。文献によれば,方鉛鉱(図4)が一般的とされる(9)(10)が,黄鉄鉱(18)(図5),珪素や硫化鉄(19)などでも整流作用が得られる。筆者らは確認していないが,紅亜鉛鉱を用いると方鉛鉱以上に良好な性能が得られる場合があるとされる(8)(13)。-27-

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