2022年2号「技能と技術」誌308号
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図1 題材とするラジオ受信機の回路図(13)図2 制作したラジオ受信機(上面)図3 制作したラジオ受信機(正面)波器から構成され,外部に空中線(アンテナ),接地(アース),受話器(イヤホン)を接続する。上部コイルは,アンテナと回路のインピーダンスマッチングを取るために用いられる。下部コイルは,可変容量コンデンサと一体となって同調をとるとともに出力団により高い電圧を出力するためにトランス構造となっている。検波は鉱石検波器により行う。これらの部品は,イヤホン以外は基本的に入手困難であることから,全て自作することとした。-26-鉱石検波器は,鉱石ラジオにおける要となる部品であり,この検波器の性能が鉱石ラジオ全体の性能を大きく左右するものである。鉱石検波器は,方鉛鉱などの天然鉱石に金属針を接触させる構造のもので,電気信号の検波に用いられる。検波とは,受信した高周波の電気信号から音声信号を取り出すことであるが,電気的には一方の方向のみに電気を通じる,「整流作用」によって達成できる(包絡線検波)。現代において最も普通に用いられているのはダイオードであるが,ショックレーらによってPN接合によるシリコンダイオードが開発される以前には,高級な受信機には真空管が,廉価で簡易的な受信機には鉱石検波器が,それぞれ使われていた。実際に鉱石検波器を自作してみると,いかにも安定性が悪く実際にこのようなものが使用されたというのがにわかに信じがたくなってくるが,文献(14)には,当時の鉱石検波器の重要性について伺い知ることができる記述が,次のようにある。『鑛石の一片は極めて些細なるものに過ぎざれども,全世界に於いて之をラデオ(ママ)用檢波器として,文化の恩惠を享受する者の數に想到せば,容易に其重要なるを理解し得可く,啻(ただ)に之を我國内のみについてみるも,その經濟的價値は輕視し得可きものに非ざるを知る可し。(ただし,()は筆者注)』このように,鉱石検波器は当時重用されていたことが分かる。しかし,その一方で,『尚鑛石檢波器の發見以來,幾多の研究者ありたるに拘らず,其理論に關しては,未尚確定する所無きは,他の多くの複雑なる無線通信に於ける現象が理論的に解決せられたるに比し,誠に奇異の現象と言はざるからず』とある。鉱石検波の原理的な解明は,多くの研究にもかかわらず,現在に至るまで達成されてはいないようである。古くは,鉱石表面(絶縁体膜)と接触針の間に生ずる電界が絶縁破壊電圧を超えることで電子雪崩のような機構により整流特性を示すという「電圧破壊」によるという説や,針と鉱石に流れる4.鉱石検波器

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