2022年2号「技能と技術」誌308号
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はじめに,ラジオ放送ならびに受信機に関する歴史を概観する。電磁波の発見は,1864年のマクスウェルによる理論的な予言に端を発し,1889年にヘルツによって実験的にその存在が実証された。1895年に,マルコーニによって無線電信機が発明され,その後,1920年には,世界最初のラジオ放送局であるKDKA局が米国で誕生した(4)。これは,電磁波の実験的実証からわずか30年という驚異的なスピードであった。日本においては,1925年(大正14年)に最初のラジオ放送局である東京放送局(現・NHK第一放送 JOAK)が誕生している(2)(5)。米国での放送開始からわずか5年後に放送を開始できた背景には,1923年の関東大震災が影響している。関東大震災では,通信インフラが壊滅的に破壊されたことから首都圏の通信網はまひ44し,救援を手配することも難儀する状態であった。震災直後には,横浜港停泊中の「これあ丸」が,銚子局,潮岬局との通信に成功し,第一報を打電した記録がある(6)。また,陸上の通信設備(逓信省中央電信局)の状況をまとめた文献には,震災当日(9月1日)から翌日にかけての悲惨な様子が,次のように記録されている(7)。『震災と同時に東京中央電信局が使用に堪へないことを知り,直ちに芝公園内遞信官吏練習所で假局を開始する目的で,一日午後種々の準備をなしたが,千葉職業能力開発短期大学校 五十嵐智彦  佐藤 玲子加藤 鈴乃  川口 航大岡田 愁翔1925年(大正14年)にAMラジオ放送が開始され,3年後の2025年には放送開始100周年を迎える(1)(2)。AMラジオ受信機は,非常に簡易な構造であり,手軽に組み立てができることから,電子工作の入門として,しばしば用いられてきたものである。また,2023年以降,順次AMラジオ局がFM放送に移行する動きもあり(3),現在はAMラジオ受信機工作を楽しむことができる最後の機会でもある。筆者らは,総合制作実習(専門課程)の一環として,放送が開始されたおよそ100年前の書籍や資料を調査し,放送が開始された大正14年当時の受信機を制作することとした。これは,当時の回路を復元することで,放送開始当時の音声や雰囲気を再現しようという試みである。受信機としては,当時もっとも普及していた「探り式鉱石ラジオ」を題材とし,構成部品である,「蓄電器(コンデンサ)」,「線輪(コイル)」,「検波器」を自作することによって作製した。本稿では,当時の受信機やその技術についての文献調査を行うとともに,必要な要素部品についての基礎検討を行い,多少の知見を得たので,報告する。放送開始100周年に際して,ラジオ工作に興味を持った方の参考になれば幸いである。-24-1.はじめに2.放送史と受信機の歴史の概略100年前の文献から読み解く鉱石ラジオ教材の制作 その1〜AMラジオ放送開始100周年に際して〜

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