2022年1号「技能と技術」誌307号
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削った板に触った瞬間,棟梁の鳥肌が立った。仕上げ面が見たことがないほど美しい。さらに,手直しされたカンナの刃先をみて,棟梁は『ポン助』が政五郎の想像以上にただならぬ腕前の持ち主だと気が付く。そして腕の高さを見抜けず,学ばなかった弟子に腹が立った。棟梁は松を怒鳴りつけた。「客人に小僧の仕事,板削りをさせたとは生意気だ。てめーには100年早いんだよ」ただし,さすがの棟梁も『ポン助』があの左甚五郎だとはまだ気が付かない。その後も,この『ポン助』現場をみたり,手伝ったり。が,どうも現場には煙けむたがられる。急ぎの若い衆にとっては時として邪じゃ魔まに思われた。「おまえの作った踏み台は100年持たんな」言われた梅,目を丸くして「おもしれー奴やつだなぁ『ポン助』。おめぇそんなに長生きするつもりかい」と,こんな調子。若い衆は『ポン助』の言葉に聞く耳を持たなかった。(その二に続く)【参考】落語「三井の大黒」;三代目桂かつら三み木き助すけ落語「三井の大黒」;六代目三さんゆうていえんしょう遊亭圓生-25-

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