2022年1号「技能と技術」誌307号
20/30

回違う内容であること。⃝受講者本人だけでなく,周りのスタッフも一緒に考えるようになった。⃝自分の現場でも起こり得る設備のトラブルや難解な点検手法などの設問に興味があった。これは集合教育では見られなかった現象である。現場全体での学習への取り組み。添削されたレポートと解説書での共有された復習。もちろんすべての現場ではないので,けん引する現場責任者のリーダーシップあっての話ではあるが,この事例を拡散していけば,当初考えていた計画よりもっと大きな成果が得られると推測できる。通信形式を利用した教育では,そのアルゴリズム(教育計画と消化)だけでなく,教育担当者や受講者,現場の責任者,つまり直接その教育に関与する人の考えや支援が必要になる。受講者の興味や向上心を育み,学習することに対るフォローである。(末項7.1,7.2を参照)十人十色という言葉があるが,技術スタッフ一人ひとりの習熟度や学習力,吸収力と言ったものには個人差があり,そこを丁寧に扱い個別の指導をしなければ,真に育成することにはならない。また人の成長には幾つかのパターンがあり,有能な人材を育てるにはその点も十分理解しておく必要がある。技術スタッフの場合,設備管理業務の中で習得しなければならない技能や知識は非常に多い。電気設備,空調設備,給排水衛生設備,昇降設備,消防設備など広範囲である。また小修繕を含む営繕業務が含まれることも多い。未経験者を採用した場合,業務の習得や資格の取得など,本人の戸惑いはもちろんだが,それを教育する現場の担当者や教育担当者も非常に苦労するところである。新人に自主性や向上心がありモチベーションを維持できるのであれば,日常点検の習得辺りから始めて,少しずつ現場の業務に慣れて行くことだろうが,「継続は力なり」と言えども中堅スタッフにな-18-るまで3年から5年は掛かるだろう。そのような観点ではOff-JTである座学の研修よりも現場で教え込むOJTの方が明らかに重要に思える。しかしその現場で教育する技術スタッフの力量で,その新人の成長度合いや習熟度に違いが出るのも事実である。新人がある設備の日常点検を享受されたとする。その新人が強い向上心や業務の習得に情熱があれば積極的に質問し,回答が得られずとも書籍等で自ら学習していくかもしれない。しかし残念ながらそのような新人はそう多くは居ない。多くの場合は言われたことのみを覚えて,目視点検や検針,記録といった,ともすれば形骸的な点検が通常業務と覚えてしまう。指導する技術スタッフの力量や知識が当然そのことに反映される。それを補うのが,Off-JTである座学の研修だと考えている。何でもそうだろうが,面白くなければ興味が湧かず学ぼうという意欲が損なわれる。この点検は何のために行っているのか。法的根拠は何なのか。どのようなトラブル対応が必要になるのか。それらを広範囲な設備で求められるので,自分で目標を設定し,継続的に知識や技能を習得しようとする心構えが必要になってくる。中堅クラスの技術スタッフでも,全ての設備に精通している者は数少ない。しかしオールマイティーでなくとも設備全般がある程度理解できる技術スタッフは確実に必要である。現場の構成は大なり小なりピラミッド型である。頂点に現場責任者,それを支え日常業務を担当する中堅者スタッフ,その中に新人スタッフが入ってくるという形である。その中核に存在する中堅スタッフの力量が上がれば現場力が向上する,しいては企業力が増すことになり,大きな人的資産となる。現場の中堅スタッフが座学で知識や技量を向上させ,現場においても自らの努力で技能を向上させる。その中堅スタッフが新人に対しOJTを行えば,その新人の成長も早まることと思う。社内教育も座学と現場実習が充実してこそ実りが大きくなると考える。またその両者は切り離せず,双方ともに効率の良い教育をめざすべきである。今回試行している通信教育的な現場主体の社内研修はその意味でも一歩前進した形と思える。4.技術スタッフ育成の在り方について

元のページ  ../index.html#20

このブックを見る