2021年4号「技能と技術」誌306号
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福岡職業能力開発促進センター 和田 正博120年を超える産業の歴史を誇る北九州市。今もなお,北九州エリアから世界的なオンリーワン技術を出し続けている。市の誇りをかけて,特に技能技術に抜きんでた現代の名工を顕彰する「北九州マイスター制度」は2001年に始まった。記念すべき第一回,各分野から名工の六名の方々が選ばれたが,機械加工のマイスターとしてその一人に選ばれたのが,当時TOTOに勤めていらっしゃった生野保幸先生だった。精密機械加工に精通した卓越した技術者として顕彰されたのである。生野先生は無類のラーメン好き。私もよく北九州のラーメン屋巡りに同行させていただきながら,いろいろな話に花を咲かせた。あるとき,「天皇陛下から黄色の勲章をもらっちゃったよ」と。驚きのあまり「どこで?」と意味の分からないことを聞いてしまった。「皇居よ」と生野先生。そりゃそうだ。生野先生,黄色の勲章,つまり黄綬褒章を叙勲されていたという。まったく恐れ入り奉った。-17-その北九州マイスターの優れた技能技術を伝承すべく始まったのが「北九州匠塾」。わがポリテクセンター八幡(現;福岡)も全面協力,と,いうより,全力協力。機械加工,溶接などのコースが開かれた。こんな機会はめったにはない。皆,意気軒高,より良いものにしようと,張り切った。現代の名工の話を聞こうと,県内の企業から腕利きの熟練工が集まった。開講式にはテレビ放送局や新聞社もやってきた。われわれも身が引き締まる思い。私は生野先生の旋盤コースの担当として補佐をさせていただいた。生野先生の授業は驚きの連続。先生の卓越した神業的な技能,滑らかなハンドルさばきに思わず鳥肌が立った。しかし,最も驚いたのは,教え方伝え方が本当に素晴らしかったこと。周到な準備と仕込みもすごい。発想力,想像力,長年,職業訓練に携わったわれわれも驚かざるを得なかった。実は熟練した職人の方が講師を務めるセミナーはなかなかうまくいかないことが結構ある。熟練さ1.黄色い勲章2.モノ言わずモノ作る人モノ喋る人北九州マイスター生野保幸先生を偲ぶ

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