2021年4号「技能と技術」誌306号
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図4 作業内容と変動係数の関係-14-作業DとEでは違いが見られる。作業Dのプロットは第2象限に集中し,作業Eのプロットはx軸(x=0.0217)付近に分布している。図6は,難易度を5とした作業における平均心拍および変動係数の平均値である(平均心拍,変動係数)=(1.07,0.0186)を原点と考え,難易度の評価値ごとに平均心拍と変動係数の関係を示したものである。作業者が感じている難易度とプロット点の分布状態には興味深い関係が認められる。難易度5の作業では,プロット点はx軸上にありy軸に対称に分布している。難易度が4となると変動係数であるy軸方向にバラツキはじめ,難易度が3および2となるとy軸方向に加えてx軸負の方向へのバラツキも大きくなる。難易度が1となると,x軸,y軸の両方向に大きくばらついた分布となっている。このことは作業者が感じる作業の難易度は,瞬時心拍の平均値と変動係数と何らかの相関があることを示している。本ケースでは,作業者が最大の評価値5をつけた作業における平均心拍および変動係数の平均値を原点(基準)として設定すると,ある作業における平均心拍と変動係数のバラツキ(分布)が基準に対してどのような形をするかで推定できることを示し,うまくいけば,多変量空間における距離尺度の一つであるマララノビスの距離(12)と同様の考えが適用できることを示唆している。作業の難易度が変化すると,作業中の平均心拍と変動係数の平均値の分布が変化することを利用すると,訓練によって技能の習得が進んでいるかどうかを見える化できる可能性がある。同じ作業でも,訓練を繰り返すことで「難しく感じる」から「簡単と感じる」に変化することは自然な流れで,この変化は,繰り返し作業における平均心拍および変動係数の平均値の分布状態を追跡することでモニターでき,結果として作業者の技能習得のレベルが推し測れることになる。加えて,平均心拍と変動係数の平均値の関係は,瞬時心拍の変化のパターンとも関係が深い。図7は,難易度の評価値が4または5と難しい感じる作業中の瞬時心拍変化に見られる典型的な2つのパターンを示す。パターンⅠは,作業開始時に瞬時心拍が大きく上昇し,4.4 技能習得への瞬時心拍計測の活用法の検討図5は,作業A~Eにおける平均心拍と変動係数の関係を作業ごとに分けて示したものである。図には,すべての作業者が最大の評価値をつけた作業Eにおける平均心拍および変動係数の平均値を破線で示している。破線の交点である(平均心拍,変動係数)=(1.07,0.0217)を原点と考え,プロット点の原点からの分布状態を見ると,作業A~Cの難易度が低いと評価した作業間ではバラツキの状態に大きな違いは見られないが,難易度が高いと評価した

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