2021年4号「技能と技術」誌306号
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表1 作業難易度の自己評価とができる。AおよびBの作業は,作業者にCからEの作業内容を正しく認知してもらうためのもので,身体的動作を伴わないものである。CからEの作業は,あらかじめ脳で認識した作業を具体的に実行してもらう身体的動作を伴う技能作業である。作業Cは,ボール盤の使用に慣れるために行うもので,加工穴の品質は問題としていない。作業DおよびEは,本実験におけるメインの作業で,汎用のボール盤によりΦ8の鉄鋼用ドリルを用いてアルミ板に3個の穴をあける技能作業である。作業Dでは,漠然と「アルミ板に穴を3個連続して開けてください」という指示を与え,作業Eでは,「アルミ板上のマークを施した位置に,出口バリの発生が極力ないように,穴を3個連続して開けてください」という指示を与えている。作業Fでは,作業者が感じた各作業の難易度等についてヒアリングを行ったが,心拍変化の評価の対象からは除外している。AからEの作業は,直観的には後の作業になるほど難易度が高く作業者の緊張度は増す傾向にある。一連の作業における瞬時心拍変化を,フィットネス用リストバンドで測定し,各作業者による作業難易度の自己評価と心拍の変動との関連付けを試みた。検討にあたっては,瞬時心拍変化のパターン,各作業における平均心拍および心拍の変動を表す指標として変動係数(=標準偏差/平均心拍)の利用を考え,これらが作業の種類や作業の難易度とどのような相関があるかについて考究した。3.1 作業難易度の自己評価と瞬時心拍変化4人の被験者に対して全作業終了後にヒアリングを行い,作業A~Eの難易度を自己評価してもらった結果を表1に示す。評価は5段階で行い,数値が大きいほど作業者が難しいと感じていることになるが,あくまで個々の作業者の中での難易度の違いを表したものにすぎず,難易度を客観的に表した数値ではない。個人差はあるものの,作業A,Bの会話および作業の流れの把握は「易しい作業」と感じ,アルミ板への穴加工である作業DおよびEは「難し-12-い作業」と感じている。また,直観的な予測通り,「アルミ板上のマークを施した位置に,出口バリの発生が極力ないように,穴を3個連続して開けてください」と細かい指示を与えた作業は,作業者全員が最も難しい作業であったと評価している。ボール盤作業の肩慣らしに実施した木材への穴加工である作業Cでは,難易度の評価結果に個人差がでる傾向にあった。図2は,作業AからFを通しての瞬時心拍の変化を作業者ごとにまとめたものである。瞬時心拍変化には明らかに個人差が見られる。一般に,心拍は緊張度とかかわりが深く,緊張感が高まると大きくなり,慣れた作業だと小さくなることが知られている(2)。単純に難しい作業を行うときには緊張度も高まると仮定すると,作業がAからEへと進むにつれて瞬時心拍が大きくなる傾向が見えることになる。しかし,各作業者の瞬時心拍変化は必ずしもこのようにはなっておらず,A~Eの作業全体を通しても瞬時心拍変化を単純に追うだけでは,作業者が作業を難しく感じているのか易しいと感じているのかを判別することは難しい。4.2 作業難易度と瞬時心拍図3は,作業A~Eにおける瞬時心拍の変化から各作業中の平均心拍を求め,作業者別にまとめたものである。ここで平均心拍は,各作業者の安静時心拍を1として規格化した値として表示している。各作業の難易度の評価値にかかわらず平均心拍の値はおおむね1.0を超えており,何らかの作業を行うと安静時より上昇することが分かる。また,難易度の評価値が2以上の作業では,難易度が高くなるほど平均心拍が高くなる傾向が見られ,難しいと感3.結果および考察

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