2021年3号「技能と技術」誌305号
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はん か表1:会話事例から抽出した20ケースなぜなら,職員が配慮受講生に指示を出しても,意図したように行動せずトラブルを起こすことがよくある。このとき,実は職員の指示に原因があり,セリフに曖昧な表現や暗黙の了解があると発生しやすいことがわかっている。けれども,曖昧な表現や暗黙の了解は職員が日常的に無意識レベルで使っているために,練習しないとセリフに含まれていることに気がつかない。やっかいなのが,他の受講生には通用する一般的なセリフであるがために,まるで配慮受講生に原因があるような錯覚をしてしまうことである。そのため,配慮受講生にとって理解の難しいセリフを職員がしゃべっているのが原因なのに,配慮受講生の非常識な行動が悪いと一方的に原因を押し付けている事例が多い。もし,職員が曖昧な表現や暗黙の了解を使わない「配慮した話し方」ができていればトラブルを未然に防止できる。特に,配慮受講生が指示を誤解しなくなることにより,職員と配慮受講生の双方のメンタルヘルスや人間関係の悪化を防ぐ効果は大きい。そこで,職業能力開発総合大学校の研修資料として開発された『話し方問題集』10)を大幅に改良して,「配慮した話し方」を練習するための問題集を開発することにした。(2)会話事例の収集と分析開発の元になった『話し方問題集』は,会話事例が少ない。また,職業訓練の現場にあわせた問題にしたほうが支援ツールとしての効果が高まる。そこで,機構の全ての職業能力開発施設を対象としてアンケート調査を実施した。収集したのは,「職員の質問や指示に対して,他の訓練受講生と異なる独特の反応の事例」である。全部で会話316事例を収集した。収集した事例から,「配慮した話し方」をしていないことに原因がありそうな170事例を抜き出し,さらに配慮受講生が誤解や困惑を生じた原因を推測しやすい108事例を対象に分析した。その結果,表1にある6つの分類と20のケースに整理できた。-21-(3)ケースと問題の作成各ケースに代表的な1つの会話事例と解説を作成し,その後に問題を数問と解説という構成で開発することにした。このとき会話事例と問題は,収集した事例をそのまま使わずに,新たに仮想事例を作成した。理由としては,個人が特定されないように場面や状況を変更するのと,訓練科に左右されない問題にするためである。ただし,収集した事例から推測される原因はそのままにしている。また,解説については,原因と「配慮した話し方」のヒントを掲載するとともに,別の原因の可能性にも言及している。これは,固定観念を持って対応しないようにするためである。

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