2021年2号「技能と技術」誌304号
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け地域を知ってもらい,定着につなげることである。また,鹿児島県のいちき串木野商工会議所では,空き店舗を活用した外国人材向けのシェアハウス「KACCHEL(かっちぇる)」を運営している。「かっちぇる」とは,鹿児島の方言で「仲間に入れる」を意味し,留学生などの外国人材を,シェアハウスを通じ街へ迎え入れることで,商店街のにぎわい創出や,市民と外国人材との国際交流を目的としている。5.1 役割以上の事例を踏まえ,外国人材が地域社会と共生し,職業能力を獲得するための商工会議所の役割について,「補完機能」・「調整機能」・「環境整備機能」に大別し述べたい。まず,「補完機能」とは,商工会議所が公共職業訓練では手の届かない分野や個々の企業のニーズをカバーし,外国人材の職業能力開発を支援していくことである。中小企業は,マンパワーが不足しており,人材育成に人員や費用を割けないことが多い。また,コロナ禍においては,テレワーク等の新たな働き方の普及により,企業は人材育成に際し困難を抱える可能性があり,商工会議所がサポートする必要が高まっていると言える。東京商工会議所の事例では,各企業のニーズは高いものの,公共職業訓練ではなかなか学べない日本の商慣習の習得を目指した。商慣習は,わが国の企業で働く上で認識・理解することが求められるが,明文化して丁寧に教えることが難しく,そうした部分を補完した事例である。こうした取組みによって,中小企業で働く外国人材の活躍を下支えしていると言える。次に,「調整機能」である。「調整機能」とは,商工会議所が,企業と外国人材と社会の三者の仲介役となり,個々のニーズを調整・マッチングしていく支援のことである。川口商工会議所の事例では,「マシニングセンタ」の技術を習得させたい企業,技術をスムーズに習得したい外国人労働者のニーズ-20-を,地域経済の発展に資する観点から調整し,解決を図った。公共職業訓練とは異なり,地域の実情に合わせ,身に着けるべきスキル・能力を調整し,地域に即した人材の育成を行うことで,外国人材の活躍を加速できると考える。最後に,「環境整備機能」である。「環境整備機能」とは,これまで外国人材とつながりがなかった組織・個人との接点を作り,外国人材を受け入れる風土を醸成することを指す。平田商工会議所の事例では,地元高校と連携することで,外国人労働者の状況や課題をアンケート等で理解し,生活環境改善に対する意識の醸成がなされた。外国人材は,地域の産業の担い手,生活者であるため,外国人材が生き生きと活躍するためには,生活環境の整備をはじめ,外国人材のバックグラウンドや身についた習慣・文化に理解を示し,共生を図っていく必要がある。5.2 今後の課題一方で,課題も存在する。まず,外国人材の技術習得に関しては,情報や教材等が不足している。事例で紹介した川口商工会議所は,外国人労働者の技術習得に関して,先行事例がない中で,手探りで支援策を講じてきた。今後,他企業等での事例の横展開を行い,技術習得プロセスを明確化し,教材等の整備を進めることが有効である。その上で,商工会議所には,管内の企業のみならず近隣の商工会議所や行政等と協力し,幅広く事例収集・分析を行っていくことが期待される。次に,中長期的な支援の必要性である。本稿で紹介した支援・取組みは,単発的なものではなく,継続して行われることで,職業能力の習得と環境整備を図ることができる。後述するが,外国人材は,臨時・短期的な就労者と捉えられやすく,そうした価値観のもと,外国人材の職業能力開発へ投資をすることにちゅうちょする企業もある可能性がある。しかし,中長期的な視点に立てば,外国人材は今後もわが国の産業の担い手として活躍する可能性が高く,外国人材の職業能力開発への投資・ノウハウの蓄積はわが国の成長・発展に寄与するだろう。その5.役割の整理および課題

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