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サンカルロス大学 松浦 勝翼この調査研究に至った経緯は次のようである。2010年10月。30数年勤めた職業能力開発総合大学校東京校建築施工科を定年で退官した後,友人のフィリピン人の推薦で,フィリピン共和国セブ市サンカルロス大学で建築の教鞭を執る機会に恵まれ,後期学期から始まる授業のため,初めてセブ市に来た。以来,今日に至るまで大学院の授業を担当してきた。フィリピン(以下,「PH」という。)の建築の教育システムはアメリカのそれを基本とし,5年制で,卒業後2年間の職場経験で建築士の受験資格が得られる。卒業後は全員就職し,資格受験に備える。PHはすべて資格社会である。大学院には建築士の資格取得後に戻ってくる。ちなみにサンカルロス大学の資格合格率は,PHの全大学の中で毎年1,2位である。PHでは前政権が始めた教育改革が始動し,今年3月には新しい教育制度(6-4-2,K12制度,日本と違い中学が4年,高校が2年)の第一期生が高校を卒業した。この制度により他国の教育制度と同レベルになり,グローバルな交流が可能になった。しかし,この制度にはいろいろな問題が内在している。まず,この制度は見切り発車であったので,教育に必要な資源(人=教員,モノ=教室,財源)の計画が後れたことである。特に公立校を卒業する大多数の生徒の職業教育制度が確立していないことが大きな問題となっている。勿論,全国に存在する公立の職業訓練機関(TESDA),資格に特化した-19-単科大学,民間の職業訓練機関があるが,圧倒的に不足している。PHでは大多数の家庭は貧困に悩まされ,それ故に学校に行けない子供が大勢いる。特に義務教育を終えた生徒は仕事に就くのも大変である。最近の調査によれば,失業率は23.9%に上る。職業教育システムの構築はPHの子供達の未来,産業の将来に大きく関連している。PHを簡単に説明すると,他のアセアン諸国とは異なる存在である。7000以上の島々からなり,大きくルソン,ビサイヤ,ミンダナオの地域からなり,人口9000万人。首都はマニラ。キリスト教徒は95%以上,地域により異なる方言を話すが,英語が全国統一の言語。スペインが統一する前からイスラムのつながりでアジアの交易の中心だった。スペインがPHを植民地として,300年後にはアメリカが100年統治した。アセアン唯一の英語圏でもある。PHの職業教育を考える上で関連する要素は複雑でお互いに関連し合っている。それらの相関をとらえることは大切なことであり,ここではそれらの要素を相関網として捉え,分析したいと思う。相関網の構成は,外枠に大きくPHを捉える,政治・行政,経済・市場,科学・技術,建国・歴史の4項目を配し,それぞれの相関で,アセアン,産業,教育・言語,文化・民族を説明し,外郭との相関で,宗教・道徳,開発・人口,資源・エネルギー,気候・風土を配し,細部の説明を試みた。この相関網は,あくまでも私見によるものであり,要素の漏れもあると思うが,これを初歩的な構成として,以下説明していきたい。1.はじめに〜相関網による考察〜フィリピンの職業教育に関する調査研究

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