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図面をチェックできるかが入賞の条件になる。訓練生には「実際の企業現場での図面は常に100点満点でなければならない。1つでも寸法が入っていなければ,物を作ることができない。次工程に迷惑をかける。誤った線の1本を入れることで,会社に大損害を与えることもある。設計現場で図面を描く場合,100点は当然である。それを目指せ」と強く指導した。7月当初は,形状の読み間違い寸法漏れ等,多くの問題はあったものの,訓練により図面力が向上,7月末にはJISに準拠するほぼ誤りのない図面を描くことができるようになってきた。聴覚障害は情報の障害とも言われ,『ハンデキャップは一次的ハンデキャップ「聞こえないこと」,二次的ハンデキャップ「話すこと,読み書きにおける不利」,三次的ハンデキャップ「コミュニケーションは閉ざされていることにより情報不足・偏りによる対人関係,心理的問題などがおきる」』2)と言われている。また,専門性の高い読み方や,漢字の正しい読み方を知らないことがある。大会課題は部品図作成に係る指示事項がある。聴覚に障害がある訓練生Bの口癖は「漢字が苦手,文章が苦手」であった。解答図は指示事項に従って,そのとおりの図面を描かなければならない。訓練生Bは形状を読み取る能力は極めて高いものの,指示事項を読み誤ってしまう傾向があった。そこで,指示事項を図示するように指示した結果,誤りが急激に減少した。3.4 若年者ものづくり競技大会にて平成29年度,大会前に新聞社3社から取材を受け,障害のある訓練生の挑戦が大きく記事に取り上げられた。競技前日(1日目)は,受付,開会式,座席抽選,持参したパソコン類の設置,出力確認を行う。平成29年度,座席は本来ならば抽選であるものの,競技委員の説明が届くよう席を指定していただく御配慮をいただいた。開会式では競技選手が一言ずつ名前と抱負を述べる。訓練生Bは発語が可能であったが,訓練生Cには難しい事柄になる。聾唖者の中には自らの発音に消極的か否定的な感情を持っている者が少なくない。しかし,訓練生Cは発語と手話を使-9-い「他の選手に負けないように頑張ります」と皆に堂々と伝えた。手話は「彼の言葉である」と改めて思うとともに,障害に負けない強い気持ちを持っていることを確信した。競技当日(2日目),競技説明前に手話通訳者と手話表現のすり合わせを行った。手話は言語であるが,専門用語の表現が少ない。私が訓練で表現する手話の単語を伝えた。そして手話通訳により競技説明が行われ競技が開始,彼らは競技終了時間までに図面を書き終えることができた。競技見学中,多くの企業や学校・職業能力開発の関係者と,障害者の訓練指導について話をする機会があった。聾学校教員からは「今後は障害者の中で留まる考えを持つのではなく,健常者の世界で競い合う環境を作りたい」と話があった。技術短期大学校職員からは「過去に下肢障害者の入校はあったが,今後は聾唖者の入校もあるかもしれない。聾唖者への訓練のノウハウ,ポイントを教えてほしい」と質問があった。「我々の愛知障害者校は,精神障害者,上肢・下肢身体障害者,聴覚障害者と全ての障害者の受け入れを行っている。障害のある訓練生の対応については,障害から『できない』と閉ざすのではなく,他の手段方法で可能になることを考える。聾唖者であれば,指導者が伝える手段を工夫すれば健聴者と共に訓練ができます」と答え,今後も障害者の訓練について情報交換する約束を交わした。障害のある訓練生の大会出場は,多くの方々に影響を与え,意識の変化を与えているようだった。3.5 若年者ものづくり競技大会を終えて競技終了と同時に,張り詰めた緊張感から開放されるように会場で競技者へ拍手が起きる。今までの競技者の努力と素晴らしい技能に対する拍手である。平成28年度,訓練生Aは入賞を果たすことができなかった。訓練生Aは,競技後に「大会を通じ努力することの大切さを覚えた。もっと努力すればよかった」と語った。愛知障害者校から参加することについて「障害者,健常者をまったく意識しなかった。ただ入賞をしたかった」とも話していた。現在訓練生Aは,製造会社の工機部でCAD業務に携わっている。入賞という結果は残すことはできなかった

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