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図2 剛体内の隣り合う要素間に働く内力イメージ図3 2質点の衝突イメージものづくりに携わる技術者・技能者の中で,自らの専門分野として衝突現象を学究した経験を有する者は少ないであろう。むしろ,衝突現象については,高等学校や大学初学年で扱われる物理(以下,「初等物理」という。)を修めるに留まる者が大多数ではなかろうか。本節では,このような初等物理の中で,「平面上での非弾性衝突」がどのように解釈されているか,その概観を見直したい。2.1 衝突物体に関する理想化任意の形の物体の衝突現象は非常に複雑であるため(4),衝突現象を理論的に解釈する際,球体と球体,あるいは球体と平面の衝突を想定して議論されることが一般的である。このとき,衝突物体である球体は質点(mass point)であるとして議論されることが多い。質点は,質量はあるが大きさを持たない,点状に理想化された物体である。あるいは,より現実味のある物体として,質量と大きさはあるが変形しない剛体(rigid body)であるとすることもある。剛体では,それぞれが質点とみなしてよいほどの微小要素の集合体であると考え,隣り合う要素間には,剛体が変形しないように内力が働くと考える(図2に,隣り合う要素i,jが互いを押す力Fji,Fijを示す)(5)。いずれにしても,衝突物体としての球体は,基本的に変形を考慮する必要のない理想化された物体として扱う。-23-一方,衝突物体の一方として平面を考える場合,この平面側についても理想化はなされる。具体的には,変形を前提とせず,表面は滑らかであるとの理想化がなされることが通例である。2.2 衝突状況に関する理想化衝突物体に関する理想化とも関連するが,衝突の際の状況として,平面上で摩擦が発生することは想定していない。また,このように摩擦の影響を考える必要がないため,衝突物体を大きさのある剛体と仮定したとしても,回転の有無やその影響には言及しないことが殆どである。2.3 非弾性衝突の考え方そもそも,衝突現象とは,複数の物体が互いに相対運動を行っているときに接触(または近距離力の有効範囲に接近)して,極めて短い時間の間に強い力を及ぼし合い,運動状態を変える現象である。図3に,質量m1,m2である2つの質点が大きさv1,v2の速度で近づき,斜線内の領域で力を及ぼし合った結果,大きさu1,u2の速度となって遠ざかる様子を示す。式(1),(2)で表される衝突前後の運動エネルギーの和E,E'について,E = E'の場合が弾性衝突,E > E'の場合が非弾性衝突とされる。このように,非弾性衝突では衝突後に運動エネルギーが減少するが,理論的解釈では,減少した運動エネルギーは熱に変換されたと考える。熱とは,物体を構成する物質の原子・分子レベルの運動エネルギーである。しかし,衝突物体の両者が変形を前提2.平面上での非弾性衝突の理論的解釈

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