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国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 菅原 協子中国職業能力開発大学校 後野  隆国立吉備高原職業リハビリテーションセンター(以下,「吉備職リハ」という。)は,障害者を対象とした職業訓練施設であり,OA事務科・経理事務科は,ビジネス文書の作成,会社の会計処理に必要な簿記の知識や技能を習得することを目的としている。一般事務職・経理事務職として就労する場合,業務の大部分がパソコンで行われる。そのため,OA事務科・経理事務科では,パソコンの技能を高める一方策として,キーボード操作の正確性と入力速度の向上を目的としたタッチタイピングの訓練をほぼ毎日行っている。タッチタイピングとは,入力作業の速度を向上させるために,キートップを目視することなく,正確にキーを打鍵するタイピング技法である。吉備職リハのOA事務科・経理事務科のタッチタイピングの訓練では,入力速度についての初期目標として,公益社団法人全国経理教育協会 文書処理能力検定(ワープロ)試験の3級程度の入力速度を基準とした,10分間に300文字入力できることを目指している。その目標に到達するために,毎日の訓練の始めに20分程度のタイピング練習を行っている。タッチタイピングの訓練は,3段階で実施している。第1段階では,ホームポジションおよびキーの配置を習得するためのポジション練習,第2段階では,指の運び方を習得するためのローマ字単語練習を行っている。第3段階では,検定試験の入力問題-16-を使った文章の入力練習を行っている。このように訓練生の習得状況に応じて,第1段階から第3段階までのタッチタイピングの訓練を1年間継続的に実施している。このうち,第1段階および第2段階では,タッチタイピング練習用のタイピングソフト(以下,「タイピング練習ソフト」という。)を使用しているが,上肢に障害のある訓練生においては,これを使うことが困難になる場合がある。理由として,タイピング練習ソフトが両手入力を前提に制作されているためと考えられる。結果として,自己流のほとんど片手入力で初期目標に到達する訓練生もいれば,到達できない訓練生もいるのが現状である。このように,既存のタイピング練習ソフトが使用できるか否かで習得度合に差が発生することは決して望ましくない。そこで,上肢の障害の程度によってタイピング速度が初期目標に到達できずにいる訓練生を支援するために,中国職業能力開発大学校(以下,「中国能開大」という。)と連携しながら,訓練生のタイピングを定量的に把握するためのキー入力記録機器の製作とタッチタイピングメソッドを開発することにした。本稿でいうタッチタイピングメソッドとは,「タッチタイピングの技能を習得するための方法」のことで,その方法とは,練習方法,教授方法などを指し,さらに効率的な練習方法を見つけるための練習機器の製作,練習教材の開発,データ収集やその集計・調査方法なども含む。1.はじめに〜ものづくりと連携した支援〜障害者職業訓練のためのタッチタイピングメソッドの開発

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