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国立障害者リハビリテーションセンター 高橋 忠庸「盲ろう者」とは「視覚と聴覚に何らかの重複した障害を持つ者」を指すが,その障害は個人差が大きく多種多様といえる。生まれつき目と耳に障害があるのか,就学後に目と耳の障害になったのか,あるいは成人になってから発症したのかによって,その学習手段やコミュニケーション方法は異なる。このような盲ろうの状態は,視覚及び聴覚の障害の程度によって,①全盲ろう,②弱視ろう,③全盲難聴,④弱視難聴の4つのカテゴリーに大別される。また,いつ,どちらの障害から重複化したかの障害歴では,①盲ベース,②ろうベース,③同時(先天性),④同時(後天性)の4つのカテゴリーに分類されるとしている(1)。盲ろうという状態は,障害の程度や障害歴が複雑であり,その障害の困難さは図り知れないといえる。盲ろう者のコミュニケーション手段については,受障まで使っていたコミュニケーション手段,視覚及び聴覚の残存機能の有無や程度等によって異なり,補聴器のマイクに向かって音声で話す,墨字筆記,弱視手話,触手話,指点字など,様々なものを活用しているが,それらを習得するためには相当の時間と努力が必要である。また,歩行や移動において,軽度難聴や片耳のみの失聴で,法令上は聴覚障害として認められない全盲の人でも,聴力で周囲の環境情報を正確に掴めず,安全な単独歩行に困難を生じる場合も少なくない。さらに,コミュニケーションや移動などに困難が大きいため,盲ろう者は周囲の情報を入手することが難-11-しい(2)。すなわち,盲ろうという状態は,コミュニケーション,移動,情報の入手の3つに大きな困難があるといえる。このように見え方や聴こえ方の状態及び障害になった年齢等によって,盲ろう者の日常生活上の困難は個人差が大きく,その支援方法や支援ニーズは千差万別である。しかし,我が国の障害者基本法をはじめとした現行法において,視覚障害と聴覚障害は別個に規定されているものの,盲ろうは固有に規定されておらず,教育,就労など障害者福祉施策の対象者として捉えられていない現状がある(3)。我が国における盲ろう者の人口は,平成24年の全国盲ろう者協会が実施した実態調査により,約14,000人とされ,そのうち,労働年齢である18歳以上65歳未満の割合は2,490名(17.8%)であるとされる(4)。盲ろう者は,コミュニケーション,移動,情報の入手などに大きな困難があるため,就労するには難しいことが指摘されている。また,盲ろう者の生産人口は少なく,一般に働いている場面に遭遇することは極めて稀である。そのため,盲ろう者の就労については,ほとんどわかっていないのが現状である。このような中,盲ろう者の就労に関する全国規模の研究では,全国盲ろう者協会が行った全国盲ろう者生活実態報告書(2006)以外に見られない。その内容は,盲ろう者338名を対象に外出や就労など1.はじめに2.盲ろう者の就労盲ろう者の就労に関する調査研究

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