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図1 宮城県で見られる「信仰の切り紙」(東北歴史博物館所蔵)奈良県立奈良高等学校 仲野 純章龍谷大学 松浦 哲郎江戸時代に庶民の間で楽しまれた遊びの一つに切り紙というものがある。紙を折ってはさみで切ると様々な図柄ができあがる「紋切り(1)」や,紙を折らずに図柄を切り出す「切り絵(2)」,あるいは,上下左右対象に規則的な切れ込みが入れられ,引き伸ばすと網目状の模様が現れる「網(3)」など,様々な種類がある。このうち,本稿では「網」に見られる切れ込みの形態を特に「切り紙構造」と呼ぶ。切り紙構造は,切れ込みの入れ方次第では,引き伸ばすと変形しながら大きく伸びることから,意匠的な用途で多く見られる。七夕飾りはその典型例であるが,この他にも,例えば,宮城県では意匠を凝らした切り紙細工を屋内の神棚を始めとした信仰対象に飾る習慣が残る(4)など,現代でも生活文化の中に溶け込んでいる(図1)。-14-一方,切り紙構造の新たな活用事例も見られるようになりつつある。例えば,切り紙構造に荷重がかかると形状に変化が現れることを直接的に活かして簡易型重量センサーとして応用することや,ひずみゲージを具備させて重量計とすることなどが検討されている(5)。また,近年は,海外での活用検討事例も報告されている。米国ミシガン大学では,太陽電池分野への応用が検討されている(6)。太陽の動きに合わせて太陽電池を変位させる手段としては,架台に太陽電池を搭載して太陽を追尾する方法が一般的であるが,彼らは切り紙構造を有する太陽電池を形成し,太陽の動きに合わせて引っ張ることで,太陽光を受けやすい傾きを生じさせるシステムを提案している。また,英国ブリストル大学では,一枚のシートが様々な形状に変化し,それに伴い幅広い機械的性能を発揮する人工材料(メタマテリアル(7))の開発に絡めた検討がなされている。すなわち,当該人工材料に切り紙構造を備えさせることで,様々な三次元形状を容易に作り出せるようになることに着目し,一般的な駆動機構を使って,ナノロボット,航空宇宙技術,スマートアンテナなどへの応用が考えられている(8)。こうした例に見るように,切り紙構造活用の動きは国内外問わず,徐々に広がりを見せつつある。なお,切り紙構造に類似したものとして,輸送時の衝撃から果物やガラス瓶などを保護する緩衝材や伸縮性が求められる布生地などに見られる「メッシュ構造(9)-(11)」がある。メッシュ構造は,後述するような切り紙構造特有の変形挙動ではなく,比較的連続的で単調な変形挙動を示すこと1.はじめに ―日本古来の文化・切り紙―-防災・減災分野を意識しながら-切り紙構造の力学応答を活かした用途展開への期待

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