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東京工科自動車大学校 佐藤 康夫我が国は,急速な少子高齢化とこれに伴う生産年齢人口の急減,産業構造・労働市場の変化等の大きな課題に直面している。また,知識・技能や人材需要の高度化,職業の多様化等が進む中,雇用の中心をなしているのは,サービス業を中心とした中小企業であり,その8割を占めている。このような中,若者のキャリア形成においては,産業界で必要となる実践的な知識や技術を学び続けてゆくことが重要であり,我が国の成長・発展の上でも不可欠な課題といえる。特に,高等教育は社会への接続という意味で重要な段階であることから,職業に必要な能力を修得できる環境を,高等教育において充実していくことが必要になっている。上述のような,現在の高等教育における職業教育の位置付けや課題,また実践的な知識・技能を有する人材の育成ニーズや高等教育機関が職業教育において果たす役割への期待の高まりを背景に,文部科学省を中心として高等教育における職業教育を充実させるための方策が検討され,その一つとして,職業実践的な教育のための新たな枠組みを整備することが決められた。「新たな枠組み」の趣旨を専修学校の専門課程においていかしていく先導的試行として,企業等との密接な連携により,最新の実務の知識等を身につけられるよう教育課程を編成し,より実践的な職業教育の質の確保に組織的に取り組む専門課程を文部科学大臣が「職業実践専門課程」として認定し,奨励することとした。-37-現在の日本における高等教育への進学率は年々高くなっており,特に大学・短大への進学率は平成28年度で56.8%にもなっている。大学・短大の進学希望者の収容率が94%という数字があり,かつての受験戦争に象徴されるように選ばれたものだけが大学に入学するという様相は無くなってきている。大学は「学術の中心として,広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開させること」を目的とし,また,短期大学は大学の目的に代えて「深く専門の学芸を教授研究し,職業又は実際生活に必要な能力を育成することができる」こととしており,大学・短期大学で行われる教育活動は,学術研究の成果を基盤とすることが本来的な目的とされている。しかし全入化が進む中,大学・短大へ進学する若者の中には将来の職業的な自立を意識して自らのキャリア形成を目的とするのではなく「自分探し」というモラトリアムの様相が色濃い若者も少なくない。大学の就職率は全卒業生を分母にすると76%程度であり,大学院進学者の12%を差し引いても多くの若者が確固たる職業に就いていない,つまり社会との接続がうまく行っていないことが窺える。一方で,企業における職業能力開発については,厳しい経済状況を背景に正規職員以外の就業形態で働く若者が増加すると共に,企業が人材育成にかける費用を縮小している傾向があり,新入社員教育の短期化が見られる。その結果,企業の人材ニーズが「即戦力」という言葉で代表されるように,高等教1.はじめに2.職業実践的な教育推進に向けた背景職業教育の質向上に向けた職業実践専門課程の取り組み

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