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2017年版の「ものづくり白書」において我が国におけるものづくりの課題として,1)技能人材等の確保の顕在化,2)第4次産業革命への対応,3)”Connected Industries”構築に向けた取り組み,4)ものづくり人材の育成,などが挙げられている1)。他方,2011年3月11日に起きた東日本大震災はまだ記憶に新しいところであるが,生産拠点の再構築と原発事故によるエネルギー問題も引き続き求められている課題である。これらの課題解決に向けては我が国における新たなものづくり基盤の構築を考えることが極めて重要である。これからのものづくりにおいて特に留意しなければならないことは,少子高齢化と労働生産性の低さである。とりわけ生産年齢人口(15~64歳)の減少は憂慮しなければならない。一方,労働生産性の国際比較を見ても分かるとおりわが国はOECD諸国に比して極めて低いことが分かる。このための解決策にはいくつかあろうがAI,ロボットさらにIoTなどの新たな技術導入による自動化の促進などは必須となろう。さらに競争力強化においては現在の強みである生産技術から,新製品の開発,マーケッティングあるいは販売へのシフトなども求められている。定義によれば,「生産文化」とは,生産技術とそれをとり巻く風土・文化との対等な融合領域に関わ-1-る学術・技術で,気候や土質,メンタリティ,歴史的背景や地政学的視点を含むものであるとしている2)。これはものづくりにおいては,生産技術はもとよりそれを支える地域あるいはそれを利用する地域の文化の関わり方が重要であるとの視点である。このことは,生産文化は生産技術とマインドセットの融合で成り立つことを意味する。そこでマインドセットに関わる日本の伝統工芸の価値観について考えるとき,外国人による我が国に対するものの見方は大きな参考となる。東京大学の教授として明治期に招聘されたE.モースは,彼の滞在中の日記のなかで 「・・・・衣服の簡素,家庭の整理,周囲の清潔,自然および自然物に対する愛,あっさりして魅力に富む芸術,挙動の礼儀正しさ,他人の感情についての思いやり・・・・・日本人は生まれながらに持っているらしい」と述べている3)。日本文学に造詣の深いD・キーンは東日本大震災におけるコメントの中で「日本的な勁(つよ)さ」について言及している4)。2004年にノーベル平和賞を受賞したW・マータイは,環境保護の世界共通語として「MOTTAINAI」を提唱した5)。「もったいない」の意味するところは,3R(リユース,リサイクル,リデュース)+発生回避+修理であるとして日本人の有する精神性に敬意を示した。ラグビー元日本代表ヘッドコーチのE・ジョーンズは成功するための心構えとしての日本人らしさに言及しこれを「ジャパン・ウエイ」と称しマインドセットの転換を求めた6)。我が国の伝統工藝に見る様々な価値観は外国人から見た精神性の一端を具現化していると言えよう。柳宗悦は「用と美(用の美)」について,単なる元東洋大学副学長東洋大学名誉教授神田 雄一日本型ものづくりの再創成新たな生産文化と日本伝統工芸の価値観の導入次世代生産システムの構築に向けて~日本型ものづくりの再創生~

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