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本稿における記述は,各年における名称を用いることを基本とする。また,「職業能力の体系」と「職業能力体系(仕事の体系)」は,本稿の主テーマであり随所に出てくることから,両者とも「体系」と略すこととする。(1)職業能力開発施策の動向職業能力開発施策の動向(2)(3)を生涯職業能力開発体系との関わりで整理すると以下のようになる。生涯に渡った職業訓練の理念として「段階的かつ体系的」な訓練の考え方は,1969年の職業訓練法の改正で打ち出された。すなわち,労働者が職業生活の全期間を通じて必要な段階で適切な職業訓練を受けられるように,新規学卒者の養成訓練を基本とし,在職者の向上訓練によってさらに技能を高め,離職者の再訓練によって技能を補完するというものであった。1980年代に入ると企業主導の職業能力開発が中心となり,終身雇用を前提とした企業内の特殊的技能を習得する生涯職業能力開発体系が形づくられた。企業における生涯職業能力開発体系は,内部労働者のOJTを基底とし,企業外のOff-JTや教育訓練がそれを補完することで体系化を図ることとした。2000年代に入ると,景気の停滞からリストラ,新卒採用控え(就職氷河期),非正規雇用の増大が社会問題となり,これへの対応として企業主導から個人主導の生涯職業能力開発体系が形成された。2001 年の職業能力開発促進法改正では,個人主体の「キャリア形成支援」を制度化し,個人の適性や経験等に即した職業選択や能力開発を支援する相談体制(キャリアコンサルティング),及び企業内における労働者のキャリア形成支援を設けた。2011年の第九次職業能力開発基本計画では,個人の主体的な能力開発の支援及び企業による労働者の能力開発の支援を目的とした「職業生涯を通じたキャリア形成支援の一層の推進」を図ることとしている。以上ように生涯職業能力開発体系に係る施策は,企業主導から個人主導に移ってきており,それに伴って職業訓練の対象者は,内部労働者(主に終身雇用制による正規労働者)から外部労働者(非正規-47-労働者,ニート等)も視野に入れた広い範囲になってきた。このように企業に属さない外部労働者の比重が高まるにつれ,訓練内容は個々の企業ニーズの対応に止まらず,広く通用性のある技能習得が求められるようになってきた。(2)体系データの整備の経緯体系データとは,各業種の内容を職務分析によって系統的に整理したものであり,その構造については図3を参照されたい。体系データの整備は1999年から始まったが,本稿では2つの時期に分けて,それらの活用目的と背景を整理していく。ア 体系データの作成(1999年から2011年)当初は(1999年~2001年),雇用・能力開発機構(現高齢・障害・求職者雇用支援機構)の施設が地元団体や企業の協力を得て,体系データを作成していた。その後(2002~2011年)は,厚生労働省・経済団体・業界中央団体・企業などの協力を得て,体系データを作成し,部内資料及び調査研究資料として取りまとめられた。この時期における体系データの活用目的を部内資料(4),調査研究資料(5)から抜粋すると以下のとおりである。○業界のモデルデータを作成し,このモデルデータを基に,地方業界団体や個別企業による独自体系の作成や職業能力開発を支援しようとするものである。○この体系を基に,独自の職業能力体系を作成し,研修の体系を整備し人材育成環境の整備をする。 また,機構の実施する各職業訓練コースの設定・評価・見直しという一連のPDCAサイクルを軸とした職業訓練の質の保障や職業訓練全体の水準の維持・向上のための標準データを作成する。イ 体系データの見直し(2012年~2016年)2012年からは,機構が業界中央団体や企業などの協力を得て,既存データ(93業種)の見直しを中心に行い,一部新規開発(4業種)を行った。この時の見直し業種の選定基準は,公共職業能力開発施設が事業主等へ支援する際に活用が高く見込まれる業種,新規成長が見込まれる業種,一定年数(5年以上)が経過している業種であった。また,見直しの目的

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