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図2 新規の二元制職業訓練生数と高等教育新規入学者数の推移(吉川教授講演資料より)する者が増えている。これは,職業教育訓練に進む若者が少なくなっていることを意味し,将来ドイツのものづくりの現場を支えられるのかという関係者の心配につながっている。デュアルシステムの職業訓練生と高等教育就学者の10年間の推移を図2に示した。青色のデータがデュアルシステムの職業訓練を始めた者の数を,赤色のデータが大学に進学した者の数を表している。デュアルシステムの職業訓練生の数は長年にわたり大学進学者数を上回っていたが,数年前に初めて逆転した。これはドイツ国内で大きな危機感をもって受けとめられた。むろんこの数値は,デュアルシステムの職業訓練を始めた若者の数が,大学進学者の数より少ないことを示しているだけであり,実際には保健衛生系など全日制で行われる職業教育訓練もあるうえに,外国人の数も含まれているため,職業訓練を受けている者の方が未だ優勢であるという統計もある。しかし大学進学意欲が非常に高まっているという事実に疑いはなく,熟練労働者をこれからどのように育成していくのかが,ドイツの産業界全体で大きな課題として受けとめられている。他方で,高等教育にも進学者増の影響が生じている。ドイツの大学では90年代頃から大きな階段教室-47-が埋め尽くされ,通路に学生が座って授業を受けるというような光景が見られるようになった。その理由の一つとして,ドイツの大学,専門大学の大半が州立であり,授業料が無償であることが挙げられる。州が高等教育費を公的に負担することについては,一部の州で授業料を徴収する動きも起きたが,結果として,教育機会を広く保障するために公費負担が維持されている。またドイツでは,これまでのところ留学生に対しても授業料は課されていない。ドイツの大学間にはあまり大きな相違がなく,多くの若者は自分が生まれ育った地域に近い大学に進むことが多かった。しかし近年,ドイツの大学がそれぞれ特徴を出し,個別化をはかる政策が進められている。その流れの中で,高等教育レベルで二元制学修(Duales Studium)を行う課程が設けられていることに触れておきたい。二元制学修とは,高等教育機関での理論的学修と,企業や公的機関での実践的な職業訓練とを交互に組み合わせて専門教育を行うものである。たとえばバイエルン州の専門大学の一部には,デュアルシステム型の学修モデルが取り入れられている。このモデルには2つの型があり,一つは,デュアルシステムの職業訓練と大学の学修を統合した形で,学生は企業等と職業訓練契

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