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により,フライス加工技能の情報処理過程モデルを構築する。3.1 概要フライス加工作業者を被験者として,人間科学に基づき,被験者の感覚や動作,神経について測定する実験を行った。被験者の技能レベルに応じた違いが測定結果にあらわれるかどうかを検証した。また,ラスムッセンの3階層モデルに基づいて,フライス加工作業の3階層モデルを作成し,測定結果と比較した。実験は,大別して2種類ある。第一は,技能レベルの異なる被験者の測定結果を比較する実験で,これを比較実験と呼ぶ。第二は,被験者の聴覚の感性に関する実験で,これを聴覚実験と呼ぶ。3.2 被験者被験者の技能レベルは,中級者と熟練者に大別した。フライス加工の中級者として,職業大総合課程(大学学部相当の課程)機械専攻4年生,熟練者として,職業大機械系教員(機械加工職種(フライス盤作業)の技能検定1級相当)および技能五輪全国大会フライス盤職種入賞経験者とした。聴覚実験の被験者は,中級者のみとした。3.3 使用した工作機械と作業内容工作機械として,汎用立てフライス盤(2MW-V,日立ビアメカニクス製)を使用した。作業内容については,比較実験では,あらかじめ六面体加工された機械構造用炭素鋼を被削材として,エンドミル加工を行った。聴覚実験では,各種の切削条件で正面フライス加工(荒加工)を行い,切込みを1mm,3mm(安全教育における上限),5mmとして,作業者の設定ミスや異常切削状態を想定した条件を意図的に与えた。3.4 測定項目と評価方法以下の各事項について,測定項目と評価方法を説-5-明する。なお,特に断りのない場合は比較実験の測定項目であるが,個々の実験目的や測定上の制約により,実験時の測定項目は適宜,選択した。(1)感覚感覚のうちの視覚について,被験者の視線を測定した。被験者はアイマークレコーダ(EMR‒9,ナックイメージテクノロジー製)を頭部に装着し,被験者が作業中にどこを見ていたかを評価した。聴覚実験では,騒音計(SL‒1370,カスタム製)を使用して,作業中に被験者が耳で感じる切削音を定量化し,後述するアンケート結果と組み合わせて被験者の感性基準を評価した。(2)自律神経系被験者の心電図,皮膚コンダクタンスを測定した。NeXus‒10 MarkII(キッセイコムテック製)による無線(Bluetooth)計測を使用し,被験者胸部には心電図用の電極2個を装着し,左手中指および薬指に皮膚コンダクタンス計測用の電極を装着した。各測定項目から,次のことを評価した。心電図から心拍変動(心拍数の時間的変化)を算出し,心拍変動からLF/HFの時間変化を算出した。心拍数やLF/HFは交感神経活動の程度を表す指標であり,値が大きいほど,交感神経活動が高い(精神的な緊張度が高い,身体の活動度が高い,など)と評価できる。皮膚コンダクタンスの値が大きく上昇すると,一過性の精神的動揺がおきていることがわかる。(3)中枢神経系被験者の前頭前野の脳血流量変化をHEGセンサ(NeXus‒10接続用,キッセイコムテック製)によるHEG値として測定した。HEGセンサは1か所のセンサ部(LEDと受光部)を持ち,センサ部を被験者の額の左側に当てるように頭部に装着する。HEG値は,被験者の大脳のうち前頭前野の脳賦活反応の指標と考えることができる。前頭前野では,感覚の情報や記憶などが統合されて,思考や検討,判断などが行われる。したがって,HEG値を用いることにより,思考,検討,判断などの脳活動がどの程度,活性化しているかを評価できる。(4)身体動作被験者が作業中,どのように動作したかを評価す3.研究の方法

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