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職業能力開発総合大学校 平成25~27年度科研費基盤研究(B)(身体性認知科学)研究班不破 輝彦・池田 知純・岡部 眞幸・菅野 恒雄・寺内 美奈二宮 敬一・繁昌 孝二・和田 正毅・古川 勇二職業能力開発総合大学校(PTU:Polytechnic University。以下,職業大と略す。)では,平成24年秋から独立行政法人日本学術振興会の科学研究費助成事業に応募できるようになった。その初年度に採択された研究課題の一つが「身体性認知科学に基づくフライス加工技能の修得・伝承モデルの構築」(研究種目:基盤研究(B),研究代表者:古川勇二,研究期間:平成25〜27年度)である。この研究では,ものづくりの技能に対して人間科学的な計測および分析を行い,眼で作業のようすを見るだけではわからないことを明らかにすることを目指した。将来的には,技能の定量的な評価や,効率的な技能習得方法の開発につながることを期待している。我々は,このような研究の推進は職業大の責務であるとの認識のもとで,研究を進めた。本稿は,この研究成果を職業能力開発関係者だけでなく,広く社会・国民に分かりやすく説明することを目的とする。2.1 技能と技術の考え方本誌のタイトルは「技能と技術」であり,本稿の題名にも「技能」が含まれている。技能と技術に対する想いは,人それぞれであろう。“技能”と“技術”-3-の違いがはっきりしない方も多いと思う。一般的な意味を確認するために広辞苑[1]を調べてみると,技能は「技芸を行ううでまえ,技量」,技術は「①物事をたくみに行うわざ,技巧,技芸。②科学を実地に応用して自然の事物を改変・加工し,人間生活に役立てるわざ」と説明されている。これに対して,本稿では,森の考え[2]に基づいて,技能と技術を解釈する。すなわち,技能については,(1)技能とは人間が持つ技に関する能力である,(2)技能は人に備わり,直接見ることができない,(3)人は体験や経験を通じて技能を習得できる,(4)人が技能を継承しなければ,技能を維持できない,(5)技能は人が持つものであるから,自然科学に加えて人間科学でもある,と考える。一方,技術については,(1)技術は,技を記録したり,伝えるように,何かに置き換えられたものである,(2)技術は,客観的に記述,記録,蓄積することができる,(3)技術は,論文やメモ,機械などによって,人に関係なく多くの人に伝達できる,(4)技術は自然科学である,と考える。2.2 暗黙知の“見える化”と問題点本稿の題名からわかるように,暗黙知は本稿のキーワードである。森[3]に基づくと,(1)暗黙知とは,表現が困難な知恵・知識や判断・処理・認識である,(2)暗黙知は,カン(感覚,感性),コツ(要領,要点,ポイント),ノウハウ(工夫,考え方,段取り)である,(3)暗黙知の多くは整理されていないため,1.はじめに2.研究の背景と目的― フライス加工技能に対する試み ―暗黙知を人間科学の力で“見える化”する

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